希望について(花崎さんのブックレットに関連して)
数年前、若い知人のWくんに誘われて、教育科学研究会の全国集会の分科会で話をさせてもらったことがある。もらったテーマは「反戦運動、多文化連帯の地域づくりの実践から」というものだったにもかかわらず、このテーマに添った話が出来なかったことだけは何故か明確に覚えている。(Wくんごめん。)
その話の下書きがあったので、冒頭部分を以下に引用。
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新自由主義グローバリズムとミリタリズムが手を携えて進む、いまのこの状況とそこのなかでの自分の位置、あるいはぼくがどんなふうに抵抗したいと思っていて現実にしているのかというような話をさせてもらいたい。
いまのこの状況というのはどのような状況か
花崎皋平(「どこへ行く」自由学校「遊」ブックレット8 2003年5月コモンズ)は以下のように書く。
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2001年秋からの報道は、爆撃、自爆攻撃、飢餓、流浪、死でいろどられています。世界に希望の光は見えません。気休めに過ぎない希望など語らず、現実をごまかさないで見つめるべきだと思っています。・・・・
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それに対して、ぼくはPP研のMLで以下のように書いた。
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確かに、現実をごまかさずに見るべきだろう。しかし、気休めに過ぎないかもしれない希望も語りたいのだと。
「もうひとつの世界は可能だ」というスローガンがある。現状ではかなり「気休めにしか過ぎない」部分もあると思うのだ。その実現の根拠などぼくに語ることはできない。しかし、ずーっと遠くのほうにある今にも消えそうな希望の光を心にとどめて、もしかしたらそれは気休めにしかならなくても、その希望を語りつづけたいと思うのだ。
そんな思いで、以前、この文章の冒頭への違和感を書いた。その違和感がかなり的外れなものだったかも知れないと、いま、やっと気づき始めている。
花崎さんがこのパンフレットで紹介しているのは、希望につながる小さな取り組みの数々。ぼくは2001年までサブシステンスという言葉さえ知らなかったのに、花崎さんは99年のコラムですでにサブシステンスを紹介している。
以下のように、
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経済のグローバル化が、世界中の都市や消費の関係を均質化するのに対抗して、地域循環型経済がオルタナティブとして模索されはじめています。そして、サブシステンス型の生活の価値が見直されています。「サブシステンス」とは、生存とか自給とかを意味する言葉で、近代の経済観では、生きることに追われたかつかつの生活を指していましたが、1970年代ごろから、オルタナティブな社会と経済の様式として光があてられるようになりました。有名な本としては、シューマッハーの『スモールイズ・・・』とか、サーリンズの『石器時代の経済学』があります。最近ではヨーロッパのフェミニストたちが、女性を構造的に差別し搾取している近代世界の家父長制と世界的な資本主義の蓄積様式とのつながりを分析し、「サブシステンス」の考えを強調しています。・・・
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それに続けて、PPのシンポジウムでのロペツエラさんの地域通貨の紹介があったり、サブシステンスな「女の町フチタン」の紹介があったり・・・。
そういう一つひとつがぼくの消えそうな希望をつなぎとめてくれる。そう、ぼくが語ると「気休めに過ぎない」希望も花崎さんのちょっと地味な筆で書かれると、ぼくの気休めに過ぎないものから、一歩だけかもしれないけれども、外に出ることができるようだ。花崎さんが冒頭で書いているように確かに状況は絶望的だけれども、それでもこのパンフレットには小さな希望がつまっている。それは「気休めに過ぎないもの」から少しだけかもしれないけれども実現に向けて踏み出しはじめているようなのだ。花崎さんがここで紹介しているいくつかの取り組みはほんとうに小さい小さいものだし、ぼくが関わっているいくつかの取り組みは、もしかしたら気休めに過ぎないかもしれないと思えるようなものだ。そして、「そんな小さな取り組みをいくら紡ぎ合わせても世の中なんて変わらない」という声はいつも聞こえている。確かにそうかもしれない。だけど、ぼくに出来ること、ぼくがしたいことは、そんな小さなことの数々。もしかして、運よくそれを紡ぎ合わせることが出来れば、それは素敵だと思うし、いつかそうならないかなと、それこそ気休めの夢を見るけれども、そういう夢でもないと、日々をすごしていけないでしょ。
で、わけがわかんなくなりつつあるのだけれども、ここで書きたかったのは、花崎さんはここで、現実をごまかさずに見つめることと同時に、やはり、こうあって欲しいというものを語っているということ。だからこそ、このパンフレットも読みたくなるわけだ。そして、それは花崎さんにとっては気休めに過ぎないものではなく、彼の真摯な思索から生まれたもの。ここから、いろんな方向に思索を深めていくことができるだろうという種のつまった素敵なパンフレットだと思いました。
(以下略)
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それへの花崎さんからのレスポンス
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Subject: [ppml 1813] Re: 花崎さんのブックレット雑感
Date:Wed, 11 Jun 2003 10:11:47 +0900
tu-taさん、私のブックレットを読んで下さってありがとうございます。そして暖かいコメントをいただきよろこんでいます。私は、戦後、社会主義へ希望を託してきました。そのことが現実認識を甘くした点を反省しています。しかし、あのころの方がいまより希望に根拠があったように思えます。おっしゃるとおり今は、根拠を示すことができないまま、希望を語らなければならない状況であるように思います。しかし、生き物としての人間の反発力、そして蓄積された文化の記憶が持つ潜勢力は、計算を越えたところがあるように思えます。ニセの希望をしりぞけつつ、希望を失わないという在り方を模索しようと思います。
(以下略)
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