『戦争と平和と美』ジョン・W・ダワー著 紹介&メモ

原爆の図・丸木美術館で作った小冊子の紹介とメモ

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戦争と平和と美
丸木位里と丸木俊の芸術
ジョン・W・ダワー/袖井林二郎訳
丸木美術館
\600

『敗北を抱きしめて―第二次大戦後の日本人』(岩波書店刊)でピューリツァー賞を受賞した米国の歴史学者ジョン・W・ダワーによる「原爆の図」解説(日文・英文)。初出・画集『原爆の図』(1990年小峰書店刊)。
第1~14部のカラー図版と第15部のモノクロ図版を収録した小冊子。

以上、丸木美術館のHPから引用
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高価な大型の画集『原爆の図』(1990年小峰書店刊)でしか読むことができなかったダワーさんの「原爆の図」解説。これを埋もれさせておくのはもったいないと感じて作成したのがこの小冊子です。訳者の袖井さん、ダワーさん、そして本の発行元の小峰書店の好意で、この小冊子を丸木美術館で作成させてもらいました。

14部までのカラー図版は連続して、第15部のモノクロ図版
はもっと前のページにあります。

ちょっと抜書き
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・・・。もし、丸木夫妻が、その凶行と暴力を全面に再現することだけに努めていたなら、人はその絵を見つづけることに耐えられず、目をつむってその場を立ち去るであろう。しかし、実際にはその逆で、これらの絵を真剣に見た人びとは、繰り返して何度も見るために戻ってくるのである。そして、ほとんどの場合、絶望感ではなく希望の感覚に心が満たされるのを感ずる。私たちは、夫婦が描いた恐怖から、鋭い――時には痛みを覚えるほどの――美を感じるのである。戦争の場面が平和を語り、死の場面は生を物語る。これらの画面に見られる破壊のすべてをおおうのは、破壊の対極にあるもの、つまり創造という、深く満ち足りた感覚なのである。  2~3P
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第12部《とうろう流し》(1968年)について
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 ・・・。
 丸木夫妻のこの作品では、灯籠流しは、宗教的儀式そのものと同じように、戦争と残虐に対決する美と創造いう、殆ど完璧な対比をなしている。美学的にもまた魂の領域でも、原爆体験はここで超越されている。しかし同時に灯籠流しの儀式はすぐれて日本的であり、そういうものとして、日本で1945年8月を追憶することと重なりあうような、民族主義的意味合いをある程度示すことになる。つまりヒロシマとナガサキの記念日はまた、自己をあわれむという保守的行事となり得るのであり、日本の国家と民族が長い間被害を受け続け、犯した罪以上の報復を受けているという信念が、この記念日によって再び強められることになる。こうなると、”追憶すること”は同時に忘却を招くことになってしまう。

 戦争の末期に日本人に加えられたあの恐ろしい行為だけに心を奪われると、日本が他国に対して与えた損害も、また実際に何世紀にもわたり国内でお互いに加えあってきた災禍をも無視しがちになる。丸木夫妻自身がそのような排外主義から免れてはいなかった。そして1969年以降の夫妻の共同制作がそれまでと違うのは、被害者と加害者についてもっと入り組んだ認識が現れたという点である。 8p
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・・・なぜなら彼らの描く犠牲者たちはふたりにとっても本当に美しく、そして結局は私たちにとっても美しいことがあきらかになるからである。これらの絵が持つ力の多くはそこに存在している。たしかにそれは悲劇の感情を生む源泉なのだが、しかしそう言うだけでは部分的な説明にしかならない。それでは共同制作の作業が生み出すダイナミズムと、歴史的記憶において芸術が果たし得る大事な役割が無視されてしまう。 15p
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・・・。位里と俊が行ってみせたように、怒りが怒りとしてだけでなく悲劇の感覚と複雑さを伴うイメージとして提示される時、歴史の記憶は確かなものとなるのである。 17p
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ダワーさんの読み解く原爆の図とその後の丸木の共同制作。いろいろ考えさせられます。
「歴史的記憶において芸術が果たし得る大事な役割」
アート、あるいは芸術の役割が、そこに矮小化される危険もあるかもしれないと思うものの、アート、あるいは芸術は結果的にそういう役割を果たし得るでしょう。それだけではないはず。だとしたら何があるのか、ここを出発点にして、アート、あるいは芸術の多面的な価値や役割を考えることもできそうです。


いろんな人に読んで欲しいと思っています。
日本語と共に、英文も掲載されていますから、日本語は読めないけれども英語なら読めるという人にも勧めてみてください。問題意識のあるそんな人への手軽なプレゼントとしてもいいかも? 原爆の図・丸木美術館で販売しています。

以下のページ
http://www.aya.or.jp/~marukimsn/top/shop.htm
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よろしく。





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