「ムーミンパパ海へいく」メモ

ものすごく久しぶりに寝台の夜行列車に乗って山陰まで帰省。
一つだけ残ってますと言われたのが、個室だったから、旅での出会いとかいう楽しみはない。ただ、飛行機より安いことを発見。株主優待を購入して、優待券との合計で通常より1万円近く安い飛行機のチケットよりも、個室寝台の方が安い。

「環境のことを考えて、飛行機に乗らない」という某神父さんに影響されて、飛行機に乗らずにすむ方法があれば、できるだけ乗らずに済まそうと思う。で、けっこう快適。

ただ、食堂車もないし酒も売っていない。もう少し旅の感じがあればいいなぁと思う。展望風呂とかつかないだろうなぁ。

そう、今日書きたかったのはそのことじゃなくて、その帰省の前に購入して(講談社文庫版)、列車の中で読んだ「ムーミンパパ海へいく」のこと。

https://tu-ta.seesaa.net/article/200808article_9.html
で、読んでみようと書いた本。

夜汽車の中で読み始めたら、いきなり、ムーミンパパとママのこんな会話が。
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「・・・、夜、旅をするのは世界のなによりも素敵なことだよ」
「ええそうですとも。ハイキングなら、昼間してもいいけど、ほんとの旅に出るのは夜ですわ」
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そうか、と思いながら夜汽車から夜景を見る。個室寝台だと部屋を真っ暗にして外を見ることができる。これはなかなかいい。ただ、真っ暗にすると本は読めない。


そう、本の話しだ。読む前の紹介にもあるように、ムーミンパパは彼の想定する父親役割を十全に果たせないことでイライラする。そんな役割なんかから降りてもいいんだとは考えない。そもそも、ムーミンパパ、とかムーミンママというネーミングがそういう役割を前提にしていると言える。保育園でもよく「**ちゃんママ」とかいう呼び方があるらしいけれども、ヤンソンの北欧でもそうなのか?


ただ、その役割に縛られているムーミンママの矛盾は書かれている。彼女の独白やパパとの以下のような会話もある。
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おちびさん(ミイのこと)は、夜はどこでねているんだろう。それからムーミンとロールもさ……。母親というものは、すきなときに外にいってねるというわけにいかないのがざんねんね。ほんとは母親こそ、そういうことができるといいのにさ  185p
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「・・・。わたしたちが夕がた家に帰ってくると、おまえはいつもここにいる――こういうきまりになっているんだ。それをよくおぼえておきなさい」
 こうパパはいいました。ムーミンママはため息をつきました。
「それがたまらないのよ。たまには変化も必要ですわ。わたしたちはおたがいに、あまりにも、あたりまえのことをあたりまえと思いすぎるのじゃない? そうでしょ、あなた」 210p
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そして、この解説で訳者の小野寺百合子さん、「この本でヤンソンさんは、ムーミンパパをとおして、ヨーロッパ的なおとうさんというものの心の中をえがきだしています。」と書く。文庫版には献辞は掲載されていないのだが、この本の献辞は「おとうさんというものにささげる」となっているらしい。そして、彼女は解説の中で日本のおとうさんと欧州のおとうさんが違うことにも言及する。欧州のおとうさんは一家の「担い手」でもあると同時に「かばい手」であって、家族を守るという考え方が強いが、日本では「担い手」であるおとうさんを家族がみんなでもりたてるというほうが強いと。


この訳者の小野寺百合子さん1906年生まれ。気になって少しウェブで検索。なんだかすごい人だ。

私の戦争論―還らざる父への鎮魂歌
4 日米開戦に反対した人はいたのか―日米開戦不可ナリ
http://www1.odn.ne.jp/~ceg94520/homepage/mumyouanS04.html
ここに写真入で紹介されている。もう亡くなっているとのこと。これによると、夫は開戦に反対したストックホルム駐在の武官だったらしい。こんな風に書かれている。
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その「バルト海のほとりにて」という本は、昭和60年の発行だが名著ゆえに再版され、このほどインターネットで購入した。この内容によれば著者・小野寺百合子は、武官とはどのような仕事をするのか、そしてその妻の役割はどのようなものなのか、詳細に語っている。武官の責任のうち一番重要なのは暗号書や重要文書の保管。保管してある金庫の管理、外出するときは夫と妻が分けて持ち歩くことや、暗号文書の作成、解読など第三者に任せることのできない難しい仕事を妻が担っていたと言う。ここの辺りの詳しい経緯はNHK特集番組で今は亡き小野寺百合子自身が語っている。
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ここに出ている「バルト海のほとりにて」は彼女が書いた本


ちなみに、この「ムーミンパパ海へいく」は1965年に書かれている。女性学もフェミニズムという名称も、ウーマンリブさえなかった時代に書かれた本だ。その時代背景を考えると、けっこう予見的な本といえるかも。


ちなみに、この文庫。解説から読むのはやめたほうがいい。解説に重要な伏線部のネタバレがあります。




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