「議論好きのインド人」の解説に関するメモ
「議論好きのインド人」(アマルティア・セン)
この本のメモは研究会に関連して
https://tu-ta.seesaa.net/article/200812article_14.html
でタゴールとガンディーとセンに関してだけ、少し書いたが、図書館で借りた本なので、返す前にそれ以外の部分っていうか、この本の二つの解説について少しメモ。
中国とケララの1990年以降の比較など、興味深い問題もいくつかあるが、ちゃんと読めていない部分は多い。
というわけで、解説についてだけのメモ。
この本、解説が二つついている。
ひとつめの解説は佐藤宏という人が書いている。その結語に近い部分が興味深い。
ここでは大江健三郎とセンの朝日新聞紙上での往復書簡の中で紹介されたタゴールの慶応大学での講演の中の一節を引用している。
===
[国家が]力を渇望するあまり、その魂(soul)を犠牲にして兵器を増強するならば、より大きな危険に瀕するのは、敵ではなく、おのれである。
===
そして、このタゴールの文章が当時の日本で受け入れられなかったことを紹介した後に、以下の文章でこの解説は締めくくられている。
===
本書でのセンのタゴール論は、・・・1916年・・・いったいあのときタゴールは何を言いたかったのか。そして、タゴールの投げかけた問題は、センを通じて現代日本にどのような示唆を与えてくれるのかと。もしタゴールが今日の日本について、「魂」という言葉を用いたならば、それは広くは「日本国憲法」、そして特殊にはその「第九条」を意味したに違いないと私は思う。
===
解説2は
「ケーララ・モデル」とジェンダーの平等をめぐって
というタイトルで粟屋利江という人が書いている。
この文章の目的については以下のように書かれている。
===
ケーララの近代史を専門とする者として、「ケーララ・モデル」をめぐる批判・再評価の議論を、ここではジェンダーの視角からのそれに絞って整理してみたい。社会的な公正、経済的発展を論じるにさいしてはセンはジェンダーの平等をきわめて重視したこと、そして、このことがフェミニスト経済学に少なからぬ影響を与えていることを鑑みて、この小文は、ケーララの歴史研究のみならず、現代・将来の経済・開発諸政策に関して、若干の批判的視点を提供しようとするものである。
===
最初に「ケララ・モデル」といわれるものについて、そして続けてそれへの批判が紹介されている。
(ケララかケーララかという表記の違いについてはとりあえずパス)
そこで、興味深いのはケララにおけるピープルズプランの紹介。
この前でケララの下からの社会運動がさまざまな社会的な達成に寄与したとしたとし、その文脈の中で1996年に州政権に付いたインド共産党(マルクス主義)を中核とする連立政権のもとで開始された運動として紹介されている。(ぼくがケララに少し滞在したのは97年の初頭だったはず)以下に引用
===
・・・州政府主導とはいえ、大規模な下からの動員をともなうあらたな運動として世界から注目を集めた。(引用者註;この参加型の民主主義への注目でWSFをケララで開こうという話もあったわけだ。)ピープルズプランはそもそも、インド憲法の・・改正を通じて連邦政府が実質化を図った地方分権化を受けたものであるが、ケーララの試みは、プラン自体をパンチャーヤットといったローカル・レベル組織での決定にまかせ、かつ、その実施のために州の計画予算の35~40%を保証した点において独創的であった。
===
この後の記述では現実の紆余曲折などについても紹介されているが、略。
その後のフェミニストによるケララのさまざまな運動への批判も略。
ケララの現状について、いろいろ参考になる文章だったが、女性の平均寿命が長いことに関する著者のの視点には賛同しつつも違和感も残った。ここで著者はそのこと自体の意義を否定するものはほとんどいないとしつつも、社会・経済状況によっては、貧困と孤独の生活が長引くことも意味するので、経済の問題は無視できないとする。そして、ここで問われているのは「ケーララのみの経済発展いかんの問題ではないのであり、グローバルなレベルでの富の不均衡という現実に目を向けることが求められる」と主張している。それ自体はそうだと思うのだが、ケーララでの豊かさを問題にするとき、より重要なのは金銭やGDPではあらわせない関係性などの豊かさの問題だと思う。
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でタゴールとガンディーとセンに関してだけ、少し書いたが、図書館で借りた本なので、返す前にそれ以外の部分っていうか、この本の二つの解説について少しメモ。
中国とケララの1990年以降の比較など、興味深い問題もいくつかあるが、ちゃんと読めていない部分は多い。
というわけで、解説についてだけのメモ。
この本、解説が二つついている。
ひとつめの解説は佐藤宏という人が書いている。その結語に近い部分が興味深い。
ここでは大江健三郎とセンの朝日新聞紙上での往復書簡の中で紹介されたタゴールの慶応大学での講演の中の一節を引用している。
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[国家が]力を渇望するあまり、その魂(soul)を犠牲にして兵器を増強するならば、より大きな危険に瀕するのは、敵ではなく、おのれである。
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そして、このタゴールの文章が当時の日本で受け入れられなかったことを紹介した後に、以下の文章でこの解説は締めくくられている。
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本書でのセンのタゴール論は、・・・1916年・・・いったいあのときタゴールは何を言いたかったのか。そして、タゴールの投げかけた問題は、センを通じて現代日本にどのような示唆を与えてくれるのかと。もしタゴールが今日の日本について、「魂」という言葉を用いたならば、それは広くは「日本国憲法」、そして特殊にはその「第九条」を意味したに違いないと私は思う。
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解説2は
「ケーララ・モデル」とジェンダーの平等をめぐって
というタイトルで粟屋利江という人が書いている。
この文章の目的については以下のように書かれている。
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ケーララの近代史を専門とする者として、「ケーララ・モデル」をめぐる批判・再評価の議論を、ここではジェンダーの視角からのそれに絞って整理してみたい。社会的な公正、経済的発展を論じるにさいしてはセンはジェンダーの平等をきわめて重視したこと、そして、このことがフェミニスト経済学に少なからぬ影響を与えていることを鑑みて、この小文は、ケーララの歴史研究のみならず、現代・将来の経済・開発諸政策に関して、若干の批判的視点を提供しようとするものである。
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最初に「ケララ・モデル」といわれるものについて、そして続けてそれへの批判が紹介されている。
(ケララかケーララかという表記の違いについてはとりあえずパス)
そこで、興味深いのはケララにおけるピープルズプランの紹介。
この前でケララの下からの社会運動がさまざまな社会的な達成に寄与したとしたとし、その文脈の中で1996年に州政権に付いたインド共産党(マルクス主義)を中核とする連立政権のもとで開始された運動として紹介されている。(ぼくがケララに少し滞在したのは97年の初頭だったはず)以下に引用
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・・・州政府主導とはいえ、大規模な下からの動員をともなうあらたな運動として世界から注目を集めた。(引用者註;この参加型の民主主義への注目でWSFをケララで開こうという話もあったわけだ。)ピープルズプランはそもそも、インド憲法の・・改正を通じて連邦政府が実質化を図った地方分権化を受けたものであるが、ケーララの試みは、プラン自体をパンチャーヤットといったローカル・レベル組織での決定にまかせ、かつ、その実施のために州の計画予算の35~40%を保証した点において独創的であった。
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この後の記述では現実の紆余曲折などについても紹介されているが、略。
その後のフェミニストによるケララのさまざまな運動への批判も略。
ケララの現状について、いろいろ参考になる文章だったが、女性の平均寿命が長いことに関する著者のの視点には賛同しつつも違和感も残った。ここで著者はそのこと自体の意義を否定するものはほとんどいないとしつつも、社会・経済状況によっては、貧困と孤独の生活が長引くことも意味するので、経済の問題は無視できないとする。そして、ここで問われているのは「ケーララのみの経済発展いかんの問題ではないのであり、グローバルなレベルでの富の不均衡という現実に目を向けることが求められる」と主張している。それ自体はそうだと思うのだが、ケーララでの豊かさを問題にするとき、より重要なのは金銭やGDPではあらわせない関係性などの豊かさの問題だと思う。
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