『概説 障害者権利条約』(第17章 労働と雇用)メモ

『概説 障害者権利条約』松井亮輔・川島聡(編)2010年 法律文化社 の「第17章 労働と雇用」の部分についてのみの抜書きとほんのちょっとした感想



==以下、抜書き、最後に少しだけ感想==


第17章 労働と雇用


崔 栄繁 著(DPI日本会議)


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Ⅰ はじめに


・・・交渉過程において、障害者雇用は最も関心の高かった分野・・・。この条約では、「労働及び雇用」と題する第27条において、労働の権利に関する具体的な規定が設けられた。また、当該権利と密接に関連する他の条項として、・・・障害者差別と合理的配慮(第2条)、職場への障害者の貢献等に関する啓発活動(第8条2項(a)(ⅲ))、職業訓練等へのアクセス…(第24条5項)、退職給付・・・(第28条(e))なども含まれた。


。。。本条約は平等・非差別をその基調とし、第27条において重ねて障害者差別を禁止している。したがって、締結国には「割当雇用アプローチ」の実施と並行して、障害に基づく差別を禁止する「差別禁止アプローチ」の導入が求められているといえる。このような問題意識を前提に、本稿は特に第27条の主要論点を紹介し、日本における障害者雇用の課題を提示することを目的とする。



Ⅱ 第27条の概要


4 合理的配慮


・・・第2条・・・第5条3項・・・。これらの規定が意味しているのは、国や自治体は合理的配慮を否定しないことはもとより、企業等による合理的配慮を支援しなければならないということである。



Ⅲ 日本の課題


1 立法措置の必要性


・・・問題は合理的配慮の救済の方法である。すなわち、合理的配慮の内容の決定は、当事者間における協議調整が基本となるが、差別があったか否か、合理的配慮が適切に提供されたか否かを、いわゆる準司法的手続きのような形で判定的に行う必要がある。・・・


2 雇用促進法の問題点


・・・

全般的に雇用促進法の規定は、雇用側の「雇用のしやすさ」に重点が置かれている。そのため、障害者を権利の主体と位置づけ、差別を禁止し、権利を保障する障害者権利条約に即した改正が必要となる。


・・・自立支援法では、就労継続支援事業は就労と訓練の場を提供することとなっているが、「訓練」のために労働法規の適用がなされない。しかし、現実的には・・・「働く場」となっている。また、これらの事業所の利用者は利用者負担を課せられてきた。この状況は「あらゆる雇用形態」におかれているすべての障害者の権利を保障していない。


・・・B型、授産施設など実質的に働く場となっている事業所は、福祉サービス法体系から切り離し、基本的には労働法規を適用させるべきである。また、「訓練」を含め雇用に関する事業は労働法規で行うべきである。就労移行支援事業での就労訓練では障害者は利用料を負担し、障害のない人が職業訓練を受ける時には手当てが出されるという差別的な扱いも解消する。


もう一点重要なことは、第27条1項に定める「障害者に開放され、障害者を包容し、かつ、障害者に利用しやすい労働市場及び労働環境」をどのように作り上げていくか、ということである。本項(j)も、開放された労働市場で障害者が職業経験を得ることを促進することが締結国の義務であると規定するが、そのような労働市場の制度設計に向けて、今後とも知恵を絞る必要がある。その際、第3条の一般原則を基礎とした制度設計が重要であることはもとより、ヨーロッパ各国で展開してきた代替雇用の仕組み(保護雇用)のあり方やアメリカの実践が参考になろう。29)


注29 松井亮輔「障害者雇用の今後のあり方をめぐって」季刊労働法225号37-39p



Ⅳ おわりに


・・・第27条について概観してみると、まさにパラダイムの変換を日本の障害者雇用・労働法制度に求められているといえるだろう。


大枠で言えば、今までの事業者主体の法制度から障害者主体の法制度への転換である。・・・


第2に、原則として代替雇用の場における障害者に労働法規を適用できるように、障害者政策を転換することである。特に自立支援法では、福祉の名の下で代替雇用の場においても利用料の負担を義務づけていた。世界でもあまり例がない。これは障害者を保護の客体と捉えている証拠でもある。今まさに、他の者と平等に、労働の場では労働法規が適用される制度への転換が求められている。


==抜書きここまで==




大筋、その通りだと思う。ぼくがいままで、言葉に出来ていなかった部分も言葉にしてくれている感じがある。


例えば、先日、仕事関係のMLにA型継続就労支援の制度について以下のようなことを書いたのだが、ここでの「障害者権利条約」での理解にほぼ近いものだといえると思う。


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それ(A型)は、社会的事業所というか、ソーシャルファーム的な色彩の強かった福祉工場の 制度とは似て非なるものであるにもかかわらず、福祉工場が移るべき制度はここしか ないので、ここに移行することになったこと、その制度の中では雇用契約であるにも かかわらず。そこへの利用料徴収が原則であり、A型利用の労働者が有給休暇をとっ ても、その分の給付が減額される歪んだ制度

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ただ、あえてちょっと不満な部分を書くと、ここでも触れている「社会的事業所というか、ソーシャルファーム的な雇用のあり方」について、この本では《ヨーロッパ各国で展開してきた代替雇用の仕組み(保護雇用)のあり方》という風にしか、ここで書いていないのが、ちょっと、という感じ。そのような代替雇用のあり方を権利条約の精神との関係でどう考えるのかという記述も欲しかった。

この記事へのコメント

tu-ta
2011年06月18日 02:29
上記のコメントのURL、まだ開いていないんだけど、もうあやしさ満載だなぁ。怖くて、開けないんだけど。もうすぐ消します。怖いもの見たさという気持ちがある人はいまのうちに。

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