「対話型ファシリテーションの手ほどき」のたこの木通信での紹介

3ヶ月に1回、書かせてもらっている「たこの木通信」での「ほんの紹介」
先月書いたのがこれ。



ほんとのことを聞くために「なぜ」を封印
   ほんの紹介5回目

 今回、紹介したいと思ったのは「対話型ファシリテーションの手ほどき」(中田豊一著2015年ムラのミライ発行700円+税)。この本、「愛情があればわかりあえるわけではない」「相手に敬意を持っていさえすれば、必ずやいい関係が築けるわけではない」という話から始まる。愛情や敬意があっても、それを伝える方法がなければ意味がない。そのコミュニケーションの技法が必要であり、それを実際に国際協力の中で使いながら、コミュニケーションの手法に留まらずファシリテーションのレベルにまで高めたのがこの「対話型ファシリテーション(メタファシリテーション)」とのこと。

 支援するものとされるものの思いはいつもズレてる、というのは岩橋さんたちの本のタイトルで、確かにズレる。しかし、できればそのズレは小さくしたい。どうして、ズレるのか、という問いへのヒントもここにあるように思った。もちろん、これだけでズレが埋まるわけではないけど。

 この技法は「なぜ」という問いを封印し、具体的な事実質問を使う対話術なのだが、それをなぜ、ここで紹介したいと思ったかと言えば、ある障害者の母が「うちの子どもは「なぜ」という質問に答えるのが苦手だから、これは役に立つかも」と言っていたからでもある。そして、読んでいくとかわるのだが、「なぜ」という問いが持っている構造的な問題がある。なぜ、「なぜ」と聞かないかと言えば、「なぜ(どうして)」という問いが「言い訳」を導くからだという。たとえば、遅刻。「どうして遅刻したの?」と聞くよりも、家を出た時間や、起きてからそれまでのあいだにやっていたこと、起きた時間、寝た時間を聞くことに意味があるという話だ。もし「なぜ?」「どうして?」と尋ねたくなったら、それをぐっと飲み込んで、「それはいつだったの?」と質問を置き換えてみるだけで、これまでとは違ったパターンのコミュニケーションが生まれ、関係に新たな光が射してくるかも、と書かれている。

 次に「~はどうでした?」という問いもNGとのこと。具体的な答えを引き出すための問いとして、5W1HのWhyとHow以外の問いが有効だという。上記の「WhyとHowの質問はどちらも問う方が楽をして、答える相手に考えさせる質問…だから、相手は、面倒くさいので適当に答えをでっち上げるか、聞き手の顔色を見ながら、自分に都合のいいように答えを作るということに…。対人援助に関わる者の最初の質問としては、あまりにも大きな危険を伴う質問…」とのこと。

 さらに、考えや意見ではなく、事実を聞くこと、という話になる。たとえば、「朝ご飯はいつも何を食べてる?」という質問ではなく、「今朝、何を食べた? 昨日は? その前は?」という問いが有効という。

 考えや意見を聞いたり、なぜ?という問いが有効な場面はないわけではないと思うのだが、それを安易に使ってしまっては、その有効性は生かせないだろう。それらの問いを出すときは、かなり注意深く準備をして、決定的なタイミングでということが必要なのかと思った。

ともあれ、こんな風に質問の仕方を変えるだけで見えてくることもあるだろうし(見えないこともあるだろうが)、それはそれで試してみる価値はあるかな、と思ったのだった。

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