場の力・エンパワメント・障害の社会モデル(「本の紹介」はほとんどしてない16回目)
以下、以下は2018年12月のたこの木通信に送った原稿ですが、ちょっと書き直しました。
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この本について、より詳しく知りたい人は
『解放のソーシャルワーク』(第1章までのメモ)
https://tu-ta.seesaa.net/article/201812article_5.html
や
『解放のソーシャルワーク』についての質問とそれへの編著者の横田さんからの返答
https://tu-ta.seesaa.net/article/201812article_6.html
も参考に
このブログでのエンパワメントについてのまとめ
https://tu-ta.seesaa.net/article/201304article_7.html
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場の力・エンパワメント・障害の社会モデル
(「本の紹介」はほとんどしてない16回目)
『解放のソーシャルワーク』のほんの一部分に触発されて書いただけで本の紹介をしてない。
この本の最初の章で佐藤寛のエンパワメント論(2005)が援用されている。開発領域においても様々な定義があるエンパワメント概念だが、「エンパワーメントは当該社会内部の社会関係の変容によって達成される」という最終目標においては合意が形成されている、というもの。
そして、エンパワメント概念から社会を抜き去り、個々のものに回収してしまうことが批判される。 (29p)
ここは見落としていた部分だ。いままで森田ゆりさんの、「エンパワメントは支援者から与えられるものではなく、自分が本来持っている力に気づくプロセスだ」という定義にのみ注目していた(それはそれで正しいと思う)。
それだけでなく、本人が自ら本来持っている力に気づくために、社会というか所属するコミュニティで尊重される必要がある。従来、劣っているものとして見下されていたとすれば、社会(あるいはコミュニティ)がその見方を改めるかたちでの【当該社会内部の社会関係の変容】が求められるわけだ。
同時に当該社会【全体】の社会関係の変容がなくても、エンパワメントは可能ではないかとも思う。当事者が信頼する誰かが、既存の社会関係が歪んでいることを認め、当事者の尊厳を尊重してくれることでエンパワメントは実現する。
森田ゆりさんはこんな風に書く。エンパワメントとはまずもって一人ひとりが自分の大切さ、かけがえのなさを信じる自己尊重から始まる、自己尊重の心は自分一人で持とうと意識して持てるものではない。まわりにあるがままのすばらしさを認めてくれる人が必要だ。無条件で自分を受け入れ、愛してくれる人が。
障害の社会モデルとエンパワメントの関係は、ずっと考えてきた課題でもある。以前、以下のように書いた。障害者が障害ゆえに生きにくさを感じているということがあるのなら、まず変らなければならないのは社会のほう…、自分はそのように言っていいんだと気づくプロセスがエンパワメントだというふうにも言える。https://tu-ta.seesaa.net/article/200905article_3.html から
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同時に…エンパワメントのために社会モデルが必要であり、また、社会モデルの出自でありまた帰結でもある社会を変革していくというアプローチのためにもエンパワメントは必要になってくる。その両方は相互に必要とされていて、それらをダイナミックにかみあわせていくことが必要なんじゃないか…
「エンパワーメントは当該社会内部の社会関係の変容によって達成される」というが、エンパワメントはゴールのないプロセスだと思う。森田さんにならって言えば、「自分自身のすばらしさに気づくプロセスがエンパワメント」なのだから、「達成」というとき何を指すのかが問題。だから、その「達成」はゴールではなく、到達段階と考えるべきだろう。
また向谷地さん流に言えば、エンパワメントには「場の力」が必要ともいえる。その「場」で肯定されることが本人の気づきのプロセスを促進する。
「障害」とされる「心身が多数派と異なる状態」が「~~ができない」という状況を作り出していると考える前に、「心身が多数派と異なる状態」も持つ本人を「~~ができない」という状況に置いているのは主要に社会の問題であるという「障害の社会モデル」の視点を持つことが自己肯定感やエンパワメントを促進する。
ここに「主要に(社会の問題)」と書いたように、どんなに社会が変わっても残る「~~できなさ」はある。その「~~ができない自分」を丸ごと受け入れる「存在の肯定」は自らがかかわる社会・コミュニティとの関係の中で育まれるはずだ。それもまた「場の力」と呼ぶことができる。
エンパワメントは個に注目するが、その「個」は社会の存在抜きにはありえない、社会的存在としての「個」である。
ここで書きたかったことは、「エンパワメント」と「障害の社会モデル」と「場の力」の抜き差しならない関係。それぞれがそれぞれに影響し、自分自身と社会を(じたばたしながらも)少しでもましな方向へと変えていくことにつながっているのだと思う。
この本について、より詳しく知りたい人は
『解放のソーシャルワーク』(第1章までのメモ)
https://tu-ta.seesaa.net/article/201812article_5.html
や
『解放のソーシャルワーク』についての質問とそれへの編著者の横田さんからの返答
https://tu-ta.seesaa.net/article/201812article_6.html
も参考に
このブログでのエンパワメントについてのまとめ
https://tu-ta.seesaa.net/article/201304article_7.html
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