東京オリンピック反対デモにお金をもらって参加したというNHKの嘘報道に関する、報告書について

2月10日に公表されたNHKのデモにお金をもらって参加したという嘘の報道についての報告書。

なぜ、そのようなことが起きたのかという部分をチェックの問題にすり替えているように感じる。
初めから、五輪反対デモに予断と偏見を持っていたのであのようなシーンを意図的に挿入したのではないか? そのことに調査チームは何も言及しておらず、とても不十分な調査だと思う。

調査チームに外部のスタッフが1名しかいないことにも問題を感じる。名誉を傷つけられたデモの主催側への謝罪や取材も行われた形跡がない。
あってしかるべき謝罪がなされず、なぜ、このようなことが起きてしまったのかということに肉薄できていないのだから、それが可能になるような検証チームを作り、それをもとにした、検証番組を作ることも必要だと感じている。
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こんな感じの意見をNHKにも送った。

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参考掲載
2022年2月10日夜DL


  

「BS1スペシャル」報道に関する調査報告書    

2022年2月10日 

日本放送協会 

「BS1スペシャル」報道に関する調査チーム 


  

はじめに  

 2021 年 12 月 26 日に放送したBS1スペシャル「河瀨直美が見つめた東京五輪」について、本 調査チームは、関係者のヒアリングを進めるとともに、取材・制作の進め方などを調べ、見解と 再発防止に向けたポイントをまとめ、公表します。 

 今回の調査では、問題の原因や背景を報道機関として可能な限り自ら解明し、同様の事案を二 度と繰り返さないという姿勢で臨みました。 

 その結果、あいまいな情報をもとに、裏付け取材が行われないまま、番組の制作が進み、上司 によるチェックも十分行われず、誤った内容の字幕をつけたシーンが放送されたことが明らかに なりました。さらに、担当者の間で、当該シーンが視聴者にどう受け取られるかという認識が欠 落していたこと、すでに導入している事実確認のためのルールが守られずチェック機能が働かな かったことも判明しました。自らを律するために定め、放送現場で働く職員たちにとって基本と なる「NHK放送ガイドライン」から逸脱しており、杜撰な対応だったと言わざるを得ません。 

 今回の番組は、すべてNHKの責任で、取材・制作しており、東京五輪公式記録映画(以下、公 式記録映画)とは内容も異なります。番組にご協力いただいた監督の河瀨直美さんはじめ公式記 録映画の関係者のみなさま、インタビューに答えていただいた男性、五輪反対デモに参加した方 など番組で取り上げさせていただいた方々、視聴者のみなさまに重ねて深くお詫びいたします。 

 今回の調査結果を踏まえ、再発防止に向けて全局的な取り組みを進め、視聴者のみなさまの信 頼に応えられる番組を取材・制作してまいります。 

 「BS1スペシャル」報道に関する調査チーム  

目次  

Ⅰ. 調査体制  

Ⅱ. 番組の概要と制作体制 

Ⅲ. 当該シーン・取材の経緯 

Ⅳ. 調査のポイント・判明したこと

  (1)男性への取材状況 

  (2)問題の字幕が付けられた経緯 

  (3)なぜ誤った内容の字幕が放送されたのか 

     【総括】 

Ⅴ. 再発防止に向けて 




Ⅰ.調査体制  

責任者  松坂 千尋 専務理事 

    伊藤 浩 理事 

     原 淳 リスク管理室長 

     渡辺 健策 総務局法務部長 

     山内 昌彦 人事局長 

     國松 崇 弁護士(東京リベルテ法律事務所/第一東京弁護士会) 

    ほか 上記部局・経営企画局・編成局のメンバーで構成 計 15 人   

 NHKでは、今回の問題の発覚後、1 月 9 日夜、BS1でお詫びの放送を行うとともに、報 道発表を行い、番組と大阪拠点放送局のホームページにお詫びと経緯に関する説明を掲載しま した。今回、事実を正しく把握し、あらゆる段階で真実に迫ろうとする取材・制作者としての基本姿勢が欠けていたことを重く見て、より客観的な立場から検証が必要だとして、1 月 24 日、 松坂専務理事を責任者として、人材育成やコンプライアンスに関わる部門も加わり、放送現場 から独立した「調査チーム」を設置しました。 

 調査では、番組の取材・制作に関わった職員やスタッフからヒアリングを行うとともに、当 該シーンでインタビューを行った男性と公式記録映画の関係者からも話を聞きました。制作担 当者の取材メモや撮影素材などの関係資料も精査し、原因の究明と再発防止策の検討を進めま した。

Ⅱ.番組の概要と制作体制  

○番組の概要  

 BS1スペシャル「河瀨直美が見つめた東京五輪」前後編 計 99 分 

 初回放送 2021 年 12 月 26 日(日)後 10:00~10:50(前編) 11:00~11:49(後編)

 再放送 2021 年 12 月 30 日(木)前 08:10~09:49 

 制作:大阪拠点放送局 

  2022 年公開予定の公式記録映画で監督を務める河瀨直美さんと映画製作チームに、2020 年末から 1 年にわたり、密着取材した番組で す。番組は、前編 50 分、後編 49 分の 2 部構成 の計 99 分で、前編は、河瀨さんが公式記録映画のための取材をスタートしてから五輪開会式 の前日まで。後編は、五輪が開会してから、撮影を終え編集作業にとりかかるまでを伝えて います。国内外のアスリートや大会延期の対応に追われる関係者、競技場の外の医療従事者 や一般の市民などの姿を通じて、コロナ禍の東京五輪をどう伝えるかを模索する河瀨さんや 映画スタッフに密着しました。 

 ※BS1 スペシャル: 

  注目スポーツの舞台裏や、世界と日本の「いま」を伝えるドキュメンタリーを中心とし たBS1の大型特集番組。土日祝日などの夜を中心に随時放送。 

  

○制作体制  

 取材・制作 :大阪拠点放送局所属のディレクター 

 制作統括  :大阪拠点放送局所属のチーフ・プロデューサー(以下、CP) 撮影 :報道局所属のカメラマン 

 編集    :外部の制作会社の編集担当者 

 最終確認者 :大阪拠点放送局の専任部長(報道番組班の責任者) 

○提案と採択  

 番組を担当したディレクターは、スポーツ番組の経験が長い中堅の職員で、2020 年 9 月に関 西向けのニュースで河瀨さんのインタビュー企画を提案・担当した際、公式記録映画の密着取 材を依頼し、了承を得られたことから、今回の番組の取材・制作を進めることになりました。 

 提案は、2021 年 5 月、BS1スペシャルの番組として採択されました。当初、東京五輪終了 後の 提案は、2021 年 5 月、BS1スペシャルの番組として採択されました。当初、東京五輪終了 後の が、取材期間が長期にわたったことや編集担当者 の交代などに伴い、12 月の放送になりました。 

                    BS1スペシャルの放送に先立って、関西ローカルの番組「かんさい熱視線」(毎週金曜日・ 27 分)で放送することになり、7 月 2 日、東京五輪開会前までに密着した内容を放送しました。 なお、今回問題となった字幕のシーンは、「かんさい熱視線」の放送後に撮影したため、7月の 番組には含まれていません。

○公式記録映画との関係性  

今回の番組はすべてNHKの責任において制作しています。密着取材を中心としていたため、 取材・制作の過程で、公式記録映画の関係者と必要なやりとりを行うことはありましたが、番組 の構成や内容の決定はすべて、NHKが判断しています。 

今回の番組の一部は、公式記録映画のための取材や撮影を行う河瀨さんなどをNHKが取材す るという、いわば二重構造となっています。問題となった字幕のシーンに登場する男性は、五輪 に対する多様な声を取り上げたいとして、NHKが取材した約 10 名の中からディレクターの判断 で選択しました。この判断に公式記録映画の関係者は一切、関わっていません。また、番組内で、 

映画スタッフが河瀨さんに自身が撮影した素材映像を見せている場面がありますが、この素材映 像には当該シーンの男性は含まれていません。この場面を取材したディレクターやカメラマンの 証言により、NHKとしても確認しています。

Ⅲ.当該シーン・取材の経緯  

○当該シーン  

 問題となった字幕のシーンは、番組後編の開始から 20 分過ぎに放送されました。 字幕と男性の発言は以下の通りです。 

※以下、▼映像の説明は[]、▼字幕の内容は<>、▼インタビューなどの音声は「」で表示 

[歩きのカットに字幕] <五輪反対デモに参加しているという男性> 

[公園で座る男性に字幕] <実はお金をもらって動員されていると打ち明けた> 

男性ON 「デモは全部上の人がやるから 

(主催者が)書いたやつを言ったあとに言うだけ」 

質問ON 「デモ(が)いつあるとかはどういった感じで知らせが来るんですか」 男性ON 「それは予定表もらっているから それを見て行くだけ」 

(※男性の顔はボカシでモザイク処理。音声は変えず。)

○取材の経緯  

番組の取材は、公式記録映画の監督である河瀨さんの密着を主な内容としていましたが、2021 年 7 月に東京五輪が開会した頃から、河瀨さんは大会競技の撮影で競技場の中にいることが多 くなり、競技場の外の動きや一般の市民の取材については、河瀨さんの知人の映画監督が公式 記録映画のスタッフ(以下、映画スタッフ)として担当するようになりました。ディレクター は、コロナ禍で競技場内での取材の制限が厳しくなったことや、番組の構成上、競技場の外の 人々を撮影する必要性も感じていたことなどから、CPとも相談のうえで、河瀨さんの密着と 並行し、カメラマンと手分けをして映画スタッフの密着、撮影も進めていくことになりました。 

当該シーンに登場する男性とは、五輪の開会式が開かれた 2021 年 7 月 23 日、映画スタッフ が都内を取材中に、初めて会いました。同行取材をしていたカメラマンによると、通りかかっ た男性から映画スタッフに声をかけてきたということで、映画スタッフはその場で後日インタ ビューする約束を取り付けたということです(ディレクターは別対応で不在)。8 月7日、映画 スタッフからディレクターに、男性のインタビューに向かうという連絡があったということで す。ディレクターは同行取材を行うため、映画スタッフとともに、都内で男性と待ち合わせた あと、近くの公園に移動してロケを行いました。ロケは、映画スタッフが男性を撮影し、その 様子をディレクターが撮影する形式で行われました(カメラマンは別対応で不在)。 

Ⅳ.調査のポイント・判明したこと  

(1) 男性への取材状況  

 放送された当該シーンの男性のインタビューは、前述の 8 月 7 日にディレクターが撮影した ものです。カメラが回っている際のインタビューで、男性は、放送された「デモは全部上の人 がやるから、書いたやつを言ったあとに言うだけ」「それは予定表をもらっているから、それを 見て行くだけ」という話以外に、▽ご飯代ぐらいのお金をもらって、いろいろなデモに参加し ている、▽五輪反対デモは行かない、▽コロナが増えるから自分としては五輪はやめた方がい いと思う、という主旨の内容を話しており、その音声は撮影素材に残されています。 

 ディレクターは、記憶があいまいだとしながらも、上記のインタビュー終了後、カメラを回 していない状況で、男性から、▽デモに参加することで 2000 円から 4000 円をもらうことがあ る、▽五輪反対のデモに参加する可能性はあるという話を聞いたと話しています。男性に追加 でこの話を聞こうとした理由について、ディレクターは、男性が五輪以外のデモには何度も参 加したと話していたうえ、五輪の開催に反対の立場を示していたことから、公園での撮影を終 えたあと、改めて男性に五輪反対デモについて尋ねようと思ったと話しています。 

 一方、男性は、調査チームのヒアリングに答え、ディレクターに対して、▽デモに参加する ことでもらえるのは 2000 円程度、▽五輪反対のデモに行ってみたい、という話をしたと思うと 証言しています。そのうえで、男性は、8 月 7 日以降も、五輪反対デモには参加していないと 証言しました。 

 本年1月以降、男性には複数回、話を聞いてきましたが、男性が「五輪反対デモに行った記 憶はある」と話したこともあったため、これまでは、参加の有無ははっきりせず、「字幕の一部 に不確かな内容があった」と発表してきました。しかし、調査チームとして、2月上旬にヒア リングを行った結果、男性が五輪反対デモに参加したという確証は得られなかったため、字幕 の内容は誤りだったと判断しました。 

今回、ディレクターが、8月7日の取材のあと、番組の放送までの間、男性と接触した形跡 がないか、調査しましたが、ディレクターは、問題が発覚するまで、男性の連絡先を把握して おらず、放送の前に、電話やメールなども含めて、男性に連絡をとることはなく、男性が五輪 反対デモに参加したかどうか、確認していませんでした。 

 なお、この男性をめぐって、NHKには、映画スタッフが番組の中でNHKのインタビュー に対して答えた「プロの反対側」という表現が、男性のことをさしているのではないかという 指摘が寄せられています。しかし、映画スタッフは、調査チームのヒアリングに対し、「プロの 反対側」とは、強い思いをもってデモに参加している人たちのことであり、当該シーンの男性 のことは全く念頭になかったと否定しています。放送で使われなかった映画スタッフのインタ ビュー素材にも、当該シーンの男性と結び付けるような発言はありません。

(2)問題の字幕が付けられた経緯 (※「制作・試写の流れ」参照 P14)  番組後編の編集作業は 11 月 18 日に始まり、当該シーンは、12 月 7 日にCPが初めて内容を 確認する「プロデューサー試写①」の段階から、番組に盛り込まれていました。 ディレクターは、当該シーンを盛り込みたいと考えた理由について、様々な立場の人から見 た東京五輪を撮影しようと努力する映画スタッフの様子を描きたいと考え、その一場面として 構成に入れたと話しています。 

以下、このシーンの字幕に関する一連の細かいやりとりについては、ディレクターもCPも 番組全体の構成や映像の権利処理などに気を取られ、記憶があいまいだと答えています。 字幕の修正は主に3回行われました。 

○「プロデューサー試写①」時点  

12月7日に行われた「プロデューサー試写①」では、字幕は、以下のようになっていました。 

<かつてホームレスだった男性> 

<デモにアルバイトで参加していると打ち明けた>

CPは、字幕のデモが五輪のデモを指しているのかと質問したとしています。ディレクター は、男性が東京五輪の反対デモに行く可能性はあると話していたが、カメラが回っているとき に聞いた話ではないと答えたとしています。また、CPはディレクターに上記の疑問点につい て確認するよう指示しましたが、具体的な確認の仕方までは伝えませんでした。 

CPの指示について、ディレクターは、男性がその後五輪反対デモに参加したかどうかにか かわらず、取材の際に男性が「行く可能性がある」と話していることがわかれば、CPの指示 を満たせると受け止めたと説明をしています。この点について調査チームは、ヒアリングで繰 り返し真意を質しましたが、説明は変らず、ディレクターは、五輪反対デモに参加したかどう 

かを男性本人に確認したり、デモに関する裏付けを取るための追加取材をしたりすることは考 えなかったとしています。 

○「プロデューサー試写②」時点  

12 月 10 日に行われた2回目の試写(プロデューサー試写②)では、字幕は以下のようにな っていました。 

<五輪反対デモの参加者> 

<実はアルバイトだと打ち明けた> 

  

2回目の試写でのやりとりについて、ディレクターとCPなどの証言から、把握できた点は 以下の通りです。 

ディレクターは、男性本人が五輪反対デモに参加したという事実を確認できていないことを 認識したまま2回目の試写に臨み、男性が五輪反対デモに行く可能性があると言っていたので、 仮の字幕のつもりで、<五輪反対デモの参加者>という内容に修正したと話しています。 

<五輪反対デモの参加者>という字幕について、CPは、確認できたのかと質問したのに対 し、ディレクターから大丈夫だという回答を得たため、男性が五輪反対デモに参加したかどう か、という1回目の試写での疑問点は解消されたと思い込んでしまったと話しています。この 時点でもCPは、ディレクターに対し、具体的にどのように確認したかは聞かず、裏付けの取 

材を指示することもありませんでした。 

一方、ディレクターは、大丈夫だと伝えたのは、この字幕をCPに見せる2回目の試写の前 で、「行く可能性がある」という意味で、伝えたと話しています。 

試写①から試写②にかけて、ディレクターとCPとの間で、指示したことと、されたこと、 そして指示に対する報告の内容の捉え方に大きな違いが生じていましたが、肝心の事実関係の 確認は行われませんでした。 

その後、12 月 12 日の3回目の試写(プロデューサー試写③)を経て、翌 13 日に、報道番組 班の責任者である専任部長が参加する「統括試写」が行われましたが、専任部長が、当該シー ンの字幕の内容をめぐり、事実関係の裏付けについて説明を求めることはありませんでした。 

○「コメント完成」時点  

12 月 18 日に最終的にコメントを完成させる段階で、字幕は以下のように変更されました。 

<五輪反対デモに参加しているという男性> 

<実はお金をもらって動員されていると打ち明けた>

台本のコメントをみた専任部長は、男性がお金をもらっていることを確認したいと考え、「アル バイトという表現で大丈夫か」と質問しました。CPは「アルバイト」という言葉には、何らか の仕事で定期的にお金をもらうイメージがあると考え、ディレクターにも尋ねたうえで、<実は お金をもらって動員されていると打ち明けた>と表現を変更しました。 

また、<五輪反対デモに参加しているという男性>の字幕について、ディレクターは、2回目 の試写のように「参加した」と断定しなければ、問題はないと思ったと話しており、最後までこ の誤った思い込みを持ち続けていました。CPも専任部長も、それ以上、事実関係を確認するこ とはなく、字幕は修正されないまま放送に至りました。 

今回の字幕について、ディレクターもCPも専任部長も、時間をかけて議論した形跡はなく、 制作にあたった編集担当者も、ディレクターやCPとの間で、具体的な議論が交わされたことは なかったと話しています。 

字幕は、ナレーションと同様に、番組で伝える重要な要素の一つであり、しっかりとした裏付 け取材が欠かせないにもかかわらず、制作の担当者にその意識が欠如していました。 

(3)なぜ誤った内容の字幕が放送されたのか  

調査チームでは、なぜ、事実関係の裏付けが不十分なまま放送に至ったのか、番組の取材・制 作に関わった担当者に繰り返しヒアリングを行って検証しました。 

▼ディレクターの問題点  

取材で得た情報をもとに、裏付け取材を行い、正確な事実関係を確認した上で、番組制作に臨 むという基本ができていませんでした。最大の問題は、当該シーンが8月7日に取材したあいま いな情報をもとにしていたにもかかわらず、取材後、放送までの間に、当該シーンの男性に一度 も、実際に参加したかどうかを確かめることもなく、誤った字幕を出してしまったことです。 

ディレクターは、8 月 7 日の取材当時、男性の連絡先など基本的な情報を確認していません。 男性が、いつ、どこで、どのようなデモに参加をしたのか、参加する予定があるのかという、 当該シーンを番組の構成に入れるかどうかの判断材料になる事実関係を詳しく取材していませ んでした。聞き取った内容をメモにも残していませんでした。 

本来であれば、編集作業に入り、当該シーンを番組の構成に入れようと考えた段階で、事実確 認を行うべきでしたが、行っていませんでした。また、前述のように、試写でCPに確認を指示 された際も、男性本人に連絡をとっていませんでした。 

試写が繰り返し行われ、何度か字幕の修正が行われたにもかかわらず、それぞれの試写の段 階で、字幕の表現について自分の考えや根拠を明示したり、CPらに字幕の見直しを提案したり することもありませんでした。 

ディレクターはヒアリングに対し、当時、編集が始まり放送日も近づく中、必要な取材の日 程が決まらず並行して調整を進めたり、五輪競技の映像の使用許可を得るための交渉を行った りするなど、他の作業に追われる中で、字幕の内容への注意がおろそかになってしまったと話 しています。 

今回の事態は、男性が五輪反対デモに行く可能性がある、というあいまいな情報をもとに、 ディレクターが、五輪反対デモに行く可能性があれば、字幕の内容に問題はない、とする誤っ た思い込みを持ち続け、真実に迫る姿勢が欠如していたことが招いたといえます。 

▼チーフ・プロデューサーの問題点  

前述のように、試写で、字幕のデモが五輪のデモのことかと質問し、ディレクターに対して確 認するよう指示したものの、誰に対して、どのような方法で、どのような事柄について確認を行 うのか、具体的な指示まではしていませんでした。 

指示があいまいだったことに加え、ディレクターから、大丈夫だと報告を受けた際にも、誰か らどのような情報を得たのか、具体的な情報の確認を怠っていました。男性本人と直接連絡をと ったのか、どんな話を聞いたのか、五輪反対デモに参加した日付や場所がわかったのかなど、基 本的な情報を確認していれば、当該シーンを番組に盛り込むかどうかや、字幕の表現をどうする かについて、適切に判断できたと考えています。 

CPは、ヒアリングに対し、ディレクターとは入局年次が 2 年しか違わなかったことに加え、 ディレクターがスポーツ番組の経験が長く、この取材にも長期にわたり携わっていたことから、

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一定の信頼を置いていたと話しており、結果として両者の間のコミュニケーションが不足して いたことも今回の問題の背景にあると考えています。複数回に及ぶ試写の段階でチェックする 機会があったにもかかわらず、番組のリスク管理を担う制作統括の役割を果たせていなかった ことは明らかです。 

▼専任部長の問題点  

12 月 13 日の統括試写で、専任部長は、「河瀨監督が苦悩しながら東京五輪に向き合う姿をど う伝えるか」という観点から、番組の表現方法や番組全体の流れが適切かどうかという点に注意 が向いてしまったと話しており、当該シーンの事実関係について、確認することはありませんで した。前述のように、その後、専任部長の指摘によって、字幕の一部の表現は変更されましたが、 

事実関係については、CPが確認して基本的な課題はクリアされていると考えてしまったとし ています。ディレクターやCPが所属する報道番組班の責任者として、番組全体の内容に問題は ないことを確認し、放送を了承する重要な立場にあったにもかかわらず、その役割を果たしてい ませんでした。 

▼制作体制のサポートなどマネジメント不足  

今回の番組は、前後編あわせて 99 分の長い番組で、競技映像の使用許可の確認など必要な作 業が多かったうえ、編集作業の最終盤までロケが行われ、スケジュールに余裕がないなかで制作 が進められました。CPは、放送日が翌年にずれ込むと五輪競技の映像を使用する追加の費用が 発生するため、放送日を遅らせることは出来ないと認識しており、番組が予定通り放送できるの か、焦りを覚えていたといいます。CPは 12 月に放送する別の番組も担当していました。 

こうした制作状況にあったにもかかわらず、CPや専任部長の間で、スタッフを追加するなど 制作体制の補強や、放送日の見直しといった対策の検討が十分行われなかったことも、字幕への 対応がおろそかになった一因だと考えています。 

▼字幕内容に対する認識の欠如  

今回の問題の要因として、制作から放送に至るまで、<五輪反対デモに参加しているという男 性><実はお金をもらって動員されていると打ち明けた>という字幕を付けて当該シーンを放 送することがどのような意味合いを持つか、という認識がディレクターとCP、専任部長のいず れも欠落していたことが挙げられます。 

専任部長は、当該シーンについて、番組のテーマの公式記録映画の製作過程とは別の短い点 描と捉え、違和感を持つことはなかったと話しています。 

コロナ禍という前例のない状況で開催され、さまざまな意見があった東京五輪をテーマとす る以上、当該シーンについては十二分な検討が必要でしたが、今回はその前提となる認識が制作 担当者の中で欠如していました。

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▼働かなかったチェック機能  

今回の番組制作の過程では、通常と同程度の頻度で試写が行われていますが、「追跡“出家詐 欺”」問題を受けて設けられた「取材・制作の確認シート」「複眼的試写」「匿名チェックシート」 の3つのルールが守られず、チェック機能が働きませんでした。 

第三者的な立場から番組をチェックする「複眼的試写」は、この番組の内容の一部を先に放 送した「かんさい熱視線」では実施していましたが、今回の番組では、行われていませんでし た。 

また、当該シーンで男性の顔にボカシを入れるモザイク処理を行ったにもかかわらず、匿名 のインタビューの必要性や内容の真実性をチェックする「匿名チェックシート」を作成してい ませんでした。CPは、男性が顔を出すことを承諾して取材に応じていたことから、その後、 制作の過程で顔にボカシを入れることになっても、匿名チェックシートを活用することを検討 していませんでした。 

調査に対して、CPと専任部長は、匿名チェックシートを用いて、チェック項目を再確認し ていたら、事実確認が不十分だったことに気づくことができたかもしれないと話しています。 「取材・制作の確認シート」「複眼的試写」「匿名チェックシート」が活用されなかったことに ついて、専任部長やCPは、五輪の公式記録映画の密着取材という番組テーマのなか、自分た ちで主体的にチェックするという意識が薄れてしまったと話しています。  

【総括】  

NHK放送ガイドラインでは、「放送の基本的な姿勢」の項目の冒頭に「正確」を掲げ、「NHK のニュースや番組は正確でなければならない。正確であるためには事実を正しく把握することが 欠かせない。しかし、何が真実であるかを確かめることは容易ではなく、取材や制作のあらゆる 段階で真実に迫ろうとする姿勢が求められる」としています。しかし、調査の結果、今回の番組 では、ディレクターもCPも専任部長も、取材・制作の過程で、それぞれに与えられた役割と担 うべき責任を果たさず、杜撰な対応だったと言わざるを得ません。放送現場で働く職員の基本と なっている放送ガイドラインを逸脱していたことは明らかです。 

  

  

  

  

  


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Ⅴ.再発防止に向けて  

NHKでは、2015 年の「追跡“出家詐欺”」問題を受けて、取材によって真相に迫るというジャ ーナリストとしての基本姿勢を職員一人ひとりが再確認し、放送倫理上の問題が繰り返されるこ とがないよう取り組んできました。取り組みの柱となったのが、提案から放送までのリスクを確 認する「取材・制作の確認シート」、「複眼的試写」、「匿名チェックシート」の導入でした。しか し、今回の番組ではこれらが徹底されず、放送ガイドラインで定めた、取材・制作のあらゆる段 階で真実に迫ろうとする姿勢が欠けていました。今回の事態を重く受け止め、真に実効性のある 対策を放送現場に浸透させていくため、以下の取り組みを強化します。 

① ルールの徹底とチェック体制の強化  

上記のチェックのルールは、全国の放送現場で活用されており、大阪拠点放送局でも、「かんさ い熱視線」においては、通常「複眼的試写」や「取材・制作の確認シート」は使われています。 しかし、BS1スペシャルで活用されなかった背景には、チェックのルールを使うかどうかの 判断が、番組担当の管理職に委ねられていることがあります。 

今回の問題を踏まえ、これまでのチェックのルールをさらに強化するよう全国の取材・制作現 場に指示しました。改めて、「匿名チェックシート」の徹底を図るほか、「複眼的試写」や「取材・ 制作の確認シート」の実践を番組担当の管理職の判断に委ねていたやり方を見直します。 

今後は、番組制作にかかわる全ての部局に、番組やコンテンツの内容が、放送ガイドラインに 沿って、正確かどうかや、リスクがないかをチェックする責任者を新たに配置します。この責任 者は、「複眼的試写」や「取材・制作の確認シート」を実施すべき番組を決めたうえで、チェック のルールが適切に実施されているかどうかなど、リスクマネジメントを含めた品質管理を担いま す。また、本部の編成局において、番組やコンテンツの品質管理をサポートする事務局機能を強 化し、全国の責任者への連絡・指導を行います。 

② BS1スペシャルのチェック強化  

BS1スペシャルについて、NHKスペシャルなどと同様、本部内に事務局を設け、番組の提 案・採択の段階から放送まで、チェック機能を働かせます。すべての番組について、放送前に「取 材・制作の確認シート」や「匿名チェックシート」を提出することを義務付け、事務局は、番組の 取材・制作のスケジュールなどを把握し、必要に応じて放送日時や放送時間の見直しにも柔軟に 対応していきます。 

③ 全国での勉強会の実施と研修・人材育成の強化  

今回の問題では、あいまいな情報取材と、事実確認や裏付け取材の欠如、上司のマネジメント 不足などが教訓となりました。これらの課題を共有するとともに、再発防止策を徹底させるため、 全国の放送現場で、放送の取材・制作にかかわる職員・スタッフを対象に勉強会を実施します。 

また、新たに配置する責任者に対しては、今回の問題と再発防止策だけでなく、過去に放送倫 理上問題があった事案と導入された対策などを共有し、現場での日々の指導と人材育成を担わせ

13 

ます。 

今後は、新人層から中堅層、管理職登用時などの節目で、成長過程に合わせた、より実践的な 研修を行うとともに、研修などあらゆる機会を通じ、放送倫理上の課題を全国の現場に周知し続 けることで、放送ガイドラインの原点に立ち返り、再発防止に向けた取り組みを徹底していきま す。 

 以上 

(※ 制作・試写の流れ) 

今回の番組は前編と後編に分かれ、当該シーンは後編に含まれていました。前編の編集作業を 10月中にいったん終え、11月から後編の編集を開始しました。後編の編集に合わせて前編の 手直しも進め、プロデューサー試写③以降は、前編・後編を通した試写などが行われました。 

11月18日(木)後編の編集開始 (ディレクターと編集担当者) 12月 7日(火)プロデューサー試写① (CP、ディレクター、編集担当者) 12月10日(金)プロデューサー試写② (CP、ディレクター、編集担当者) 12月12日(日)プロデューサー試写③ (CP、ディレクター、編集担当者) 12月13日(月)統括試写 (専任部長、CP、EC※、ディレクター、編集担当者)  12月15日(水)プロデューサー試写④ 編集終了 

(CP、ディレクター、編集担当者) 

12月18日(土)コメント(台本)完成 ナレーション収録 

(CP、ディレクター) 

12月22日(水)ECS 字幕入れ完了 

完成試写 (専任部長・CP、ディレクター) 

※EC:エグゼクティブカメラマンの略。映像センターのカメラマンが取材に関わっているた め、報道局映像センターのECが上司の立場で試写に参加。

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