ケアは人を支えるだけでなく、社会も変えることができるか(ほんの紹介49回目)
ケアは人を支えるだけでなく、社会も変えることができるか
(ほんの紹介49回目)
『ケアブーム』の到来か、というような気がしている(ぼくだけかも)。それを強く感じたのは岩波の雑誌『世界』2022年1月号 「特集 ケア―人を支え、社会を変える」を読んでから。そして、そこで紹介されていた『ケア宣言―相互依存の政治へ』(大月書店、2021年)という本を読んだ。『ケアするのは誰か―新しい民主主義のかたちへ』(白澤社2020年)はちらっと見た。そして、雑誌「美術手帖」2022年2月号では「特集 ケアの思想とアート」も読んだ。
これらすべてに関わっているのが岡野八代さん。その主張のもとになっているのが岡野さん翻訳の『ケアするのは誰か』の著者のジョアン・C.トロント。その岡野―トロントが主張しているのが以下のような話。
民主主義がもし、〈あらゆる者に関わることは、それに関わるすべてのひとが、その決定に等しく関わる〉ことであるとするならば、ケアを政治の中枢へと移動させ、なによりも「開放的な」ケア関係を、社会全体で支えるしくみを考えなければならない。ケア実践が示す、多様な個人とその個人がおかれた様々な文脈への注目と配慮は、政治にとって今むしろ必要な実践…。(「世界」掲載論文から)
つまり、ケアを価値軸の中心に据えて、社会を、民主主義的に作り直す構想ということらしい。従来の利潤の追求や経済の拡大が中心の社会からの転換。
このケアの思想と同様に『ケア革命』が必要だと主張しているのが注目を集めている斎藤幸平さん。
今必要なのはまさに価値観の転換…。社会における相互扶助、相互のケア、そしてさらに言えば地球のケア…社会であったり自然というものを維持、再生していくような再生産力を高く評価するような社会への転換・・・
これは…かつてのようなマルクス経済学のように、あるいはマルクス主義のように生産力を上げていくことが解放の道だという認識を改めて、再生産力を重視する社会こそが平等で持続可能な社会であるというプロレタリアート革命ならぬケア革命というものが必要だということ…。こうした脱植民地化ケア革命という視点をいれると気候変動の…その本質は二酸化炭素を減らすことではない…。(これが)解決策であるという命題にとりつかれれば、私たちは小型原子炉や電気自動車や二酸化炭素を吸収する…技術を使いさえすれば、今まで通りの暮らしを続けていい…。ただしそうした生活の在り方の裏では更なる資源採掘、環境破壊問題、劣悪な労働条件、ジェンダー格差などの問題が不可視化されて温存・・・
この地球環境を守らなければもう絶滅するしかない…この絶滅の脅威に対しての責任があるのは当然、人類であるし、そして同時にこの危機を止められるのも私たち人類…。(カルチャーラジオ 日曜カルチャー「人間を考える~現代を見つめる~」(2)文字起こしから)
斎藤さんは同様の主張を雑誌「世界」2021年11月号「特集1 脱成長」に掲載の「気候変動と脱成長コミュニズム」という論文にも書いている。
最初に紹介した「世界2022年1月号」には『ケアから社会を組み立てる』(村上靖彦さん)という大阪市西成区でのフィールド調査をもとにした文章がある。その実践を紹介したうえで以下のように書かれている。
…西成で草の根の活動が盛んになった理由は、そもそも政治が経済活動を優先し、貧困や差別・障害のバリアなどの社会的混乱を放置していたがゆえでもある。草の根の活動の存在を、政治が福祉をなおざりにする口実にしてはいけない 。…政治においてこそパラダイムチェンジが必要…ボトムアップでうまれつつある小さな社会の理念は、大きな制度のためのモデルともなるはず
とはいうものの、戦争の前にケアの理論はどれだけ有効なのだろう、と考えると重くなる。
今回、紹介した文章の読書メモはほぼブログに掲載中。
「ケア/ジェンダー/民主主義」岡野八代著 メモ
https://tu-ta.seesaa.net/article/202202article_2.html
『ケアから社会を組み立てる』村上靖彦(大阪大学)メモ
https://tu-ta.seesaa.net/article/202202article_3.html
『ケア宣言』メモ
https://tu-ta.seesaa.net/article/202203article_1.html
プロレタリアート革命ではなく、ケア革命へ(2022年2月、雑誌「世界」掲載論文について追記
https://tu-ta.seesaa.net/article/202201article_1.html
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追記
しかし、『ケア』が注目されているのは最近の話ではない。
「ケア」というテーマについては金井淑子さんがかなり以前から注目していて、ケアロジーを提唱していたのを思い出した。
https://www.u-presscenter.jp/article/post-29577.html
こんな本が出ている。
『<ケアの思想>の錨を-3.11、ポスト・フクシマ<核災社会>へ-』
『ケアの始まる場所 哲学・倫理学・社会学・教育学からの11章』
また、『ケア学』を提唱していたのが広井 良典さん
以下の読書記録に詳しい。
読書記録:広井良典『ケア学 越境するケアへ』
https://ichikingnoblog.hatenablog.com/entry/2021/05/20/013521
以下に広井さんがきっかけで医学書院の『ケアをひらく』シリーズが生まれた話が出てくる。
https://www.1101.com/n/s/14editors/masaaki_shiraishi/2021-08-30.html
そう、昨日今日始まった話ではないのだが、・・・。
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