『福島 人なき「復興」の10年』から見えてくるもの。 そして、2022年6月26日の取材報告へ。

『福島 人なき「復興」の10年』(岩波ブックレット No.1060)を読んだ。

岩波書店のサイトでは
https://www.iwanami.co.jp/book/b599754.html

ここには、こんな紹介が掲載されている。

福島第一原発事故から一〇年が過ぎた。多額の復興予算は、当事者不在の公共事業や検証なく繰り返される除染などに費やされ、さらに原発事故の傷跡を覆い隠す「復興五輪」が強行された。地元住民を置き去りにする偽りの「復興」は福島に何をもたらしているのか。住民らの苦悩と闘いをカラー写真とルポで描く好評シリーズ第4弾

好評シリーズ」という呼び方にはちょっとした違和感が残るが、マスコミがあまり触れない原発事故の被災地、被災者の記録がここに残されている。それはもっと語り継がれなければならないはずの大切な記録だ。

地震で起きた福島第一原発の過酷事故。それにより放射能はいまも出続け、非常事態宣言が解除されていない。その事実がどんどん消されようとしていて、実際に多くの人々の脳裏から消えていっているのではないか。豊田直巳はそれに抵抗し続ける。

この過酷事故の前から、老朽化した福島第一原発の危険が訴えられ続けてきたことを、どれだけの人が知っているだろう。そして、その声を政府も福島県も東京電力も無視し続け、日本では過酷事故は起きえないと主張していた。責任をとるべき人間たちは「想定外の地震だった」という。しかし、電源喪失や大津波の想定が存在しなかったわけではない。「事故は起こりうる、想定しなければならない」と主張してきた人がいて、記録も残っている。しかし「過酷事故は起きない」と言い続けたその嘘は、このように悲劇的な形で明らかにされたにもかかわらず、嘘をついて、こんな事態を招いてしまった人間のなかに、その責任をとろうとしている人をぼくは知らない。この老朽化した原発は安全だと言い募り、反対の声を無視して、運転を続けてきた責任者が誰なのか、11年を経て、なお、曖昧にされ続けているのではないか。

責任は曖昧にされたまま、『復興』が必要という掛け声の中で、巨額の税金がゼネコンを筆頭とする企業に投入され続けている。復興のための税金が有効に使われるなら、そのことが悪いことだとは思わない。しかし、豊田直巳のルポルタージュは、そのずさんな税金の使い方を告発し続ける。多くのマスコミが沈黙するなかで、ゼネコンとそこに群がるものたちだけを肥やしていく政策。このフォト・ルポルタージュはそれを白日の下に晒す。

華々しく報道されたオリンピックの聖火リレーの出発点としての福島原発事故被災地。『復興五輪』などという呼び方があったが、その現実はどうだったのか、その虚飾を豊田直巳のカメラは、マスコミの報道をも俯瞰する位置から映し出す。

また、事故直後から豊田直巳が家族のように密着し取材を続けた長谷川健一さん。その最晩年の記録もここにある。彼の甲状腺ガンの発症、そして死去。そのガンと原発事故との直接的な因果関係には触れられていない。事故後の長谷川さんの壮絶ともいえる記録は、この本にも描かれているし、豊田直巳が監督した映画にも、はっきりと映し出されている。事故前まで長谷川さんも含めた飯舘村が実践していた「までいの村」(*)は帰ってきていない。それが戻るかどうかもわからない。

「までい」とは、「ゆっくり」「ていねいに」という意味の福島県北部の方言。福島県飯舘村では「までいの力」をキーワードに、大量生産、大量消費の生活を見直し、自然と人のつながりを大切にしたスローライフの“村づくり”を進めてきた。)
http://madei.sakura.ne.jp/about.html から



その豊田直巳の、11年を超える福島での取材報告が6月26日、ZOOMセミナーの形式で行われるとのこと。

主催は大田区で障害者の支援を生業にしている「特定非営利活動法人 風雷社中」。

詳細は https://socialquest1.peatix.com/ で。


なぜ、障害者支援が生業なのに、福島の取材報告を主催するのか、という説明もここにある。以下のように書かれている。

ソーシャルクエスト(社会を冒険する)

NPO法人風雷社中は「障害のある人たちの人権の実現と差別の解消」に障害福祉サービスの実施を通し取り組んできていますが、障害福祉の枠にとどまらず、人権の実現と差別の解消を横軸とした社会課題の共有化とネットワークづくりとして、ONLINEイベント「ソーシャルクエスト」を2022年度より開始していきます。その初年度である今年のテーマは、「11年目の福島と私たち」。原発事故から11年を経過した福島と私たちが、今後伴走してく手がかりを探していきます。その第1回目である「ソーシャルクエスト#1」は、2022年3月に岩波ブックレット『福島 人なき「復興」の10年』を出版された、豊田直巳さん11年間の取材報告です。

縦軸と横軸がどのように交差し何が生まれるかは、まだわからないが、風雷社中の新しいチャレンジに注目し、応援していきたいと思っている。




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