『施設コンフリクト』?障害者事業所建設と地域の反対・・・(ほんの紹介52回目)
『施設コンフリクト』?障害者事業所建設と地域の反対・・・(ほんの紹介52回目)
今回、紹介するのは『施設コンフリクト』(野村恭代著、2018年、幻冬舎ルネッサンス新書)。出版社のサイトには以下のように書かれている。
障害者施設や保育所などの建設時、地域住民の反対で計画中止となるニュースはたびたび報道されており、身近に感じている人も多いのではないだろうか? 「コンフリクト」とは、違う方向性の目標を追求する二者以上の間に生じる対立、葛藤、摩擦、紛争などの概念のことで、施設建設時のコンフリクトを「施設コンフリクト」と定義する。対立を好まず、物事を穏便に進めたがる日本人は、コンフリクトが苦手だ。だが著者は、対立の先にこそ、時間をかけて醸成された揺るぎない信頼が生れると説いている。コンフリクトを封印するのではなく、効果的な合意形成へ導くことが大切なのだ。本書は全国の施設コンフリクト事例を丁寧に分析し、合意形成までのポイントや具体的なマネジメント手法を提案しながら施設コンフリクトの解決への道筋を示す。
ここに書かれていのは、「コンフリクト」から逃げるのではなく、コンフリクトをちゃんとコンフリクトであると自覚して、それを解消すべく取り組むこと、そして、その手法。
そして、紹介されているのは障害者理解を求めるという従来の方法ではない。設置者が直接反対する人々と対応するのではなく、信頼関係を結べるような仲介者を置き(それが行政である例が書かれている)、反対する人の声を聴き、信頼関係を醸成し、事実をしっかり語ることで、反対する人の態度を変えていくという手法だ。それは正論で王道かもしれないと思う。
しかし、グループホームなどに関して、説明会を開く義務はないし、建設した後に地域との信頼関係を作っていくという方法も否定は出来ないと思う。説明会を開催したら、差別や偏見に基づいた反対が起きることはあり得る話だ。この本には説明会を開催しないというようなあり方への批判として以下のように書かれている。
しかし、「避ける」ということでは、実際にはあるものに目を瞑(つむ)り、あるものを避けて通るという、きわめて消極的な方法であり、共生社会の構築にはまったく寄与しません。(61p強調は引用者)
ぼくは「まったく寄与しません」というのは言い過ぎだと思う。ケースバイケースで、最初は説明を「避けて」も、作ってしまってから関係を形成したほうがうまくいく場合もあるはず。ま、それでも地域との関係は作るべきだという話ではあり、いつまでの避けるのは、やっぱりダメだと思うけど。
少し戻るが「原因は差別や偏見ではない」という小見出しがあり、こんなことが書いてある。
日本における障害者施設コンフリクト研究の第一人者の一人である古川孝順氏は、施設コンフリクトの要因は、偏見や誤解といった住民意識や心的規制によるものではなく、それを規定している当該地域の諸条件にあると述べています。25-26p
ここもどうかなぁと感じた部分だ。「施設コンフリクトの要因」に「偏見や誤解といった住民意識や心的規制によるもの」がないとは言えないはず。精神障害者や知的障害者が犯罪を起こすとかいう誤解や偏見があり、それが障害者施設建設の忌避を規定している部分は小さくないのではないか。当該地域の諸条件とともに偏見や誤解といった住民意識が大きく影響しているように思う。
違和感を中心に書いてしまったが、いままで考えていた、GHの建設反対運動への対応に関して、新しい知見を、この本で得ることが出来、そういう意味では読むべき本だと思った。
また、障害者を忌避する建設反対は誤っているという視点を持ちたいが、同時に障害者が通常とは異なる施設生活を送ることを強いる施設建設に、障害者の権利の観点から反対するということはあり得ると思う。しかし、同じ建設反対でも、この二つは明確に異なる立場であり、これをあいまいにするようなことはしてはいけない。
この本の詳しい読書メモは
https://tu-ta.seesaa.net/article/202205article_1.html に掲載。
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