ソーシャルワークは社会的抑圧と向き合えているか(ほんの紹介53回目)

たこの木通信、2022年7月に掲載された原稿。送った後で原稿を触った形跡があるので、ちょっと変わっているかも。あわせて、間違いを一部訂正し、紹介箇所の頁やURLを追加。


 ソーシャルワークは社会的抑圧と向き合えているか
(ほんの紹介53回目)

 今回、紹介するのは『脱「いい子」のソーシャルワーク:反抑圧的な実践と理論坂本いづみ ほか著、2021年、現代書館)。読書メモをまだ第1部までしか書いていないので、今回はそこまでを中心に紹介。出版社のホームページ https://gendaishokanshop.stores.jp/items/6048b138aaf0430bd8bbc6ac? 「反抑圧的ソーシャルワーク(通称AOP)の理論から実践までを日本で初めて紹介・・・社会正義に基づくソーシャルワーク入門書」、このAOPが「イギリスやカナダのソーシャルワーク教育の軸として採択されるようになった」(13頁)とのこと。

 すごく簡単に言ってしまえば、ソーシャルワークの対象となる当事者について、個人の資質みたいなところだけを見るのではなく社会モデルで把握して、彼や彼女がそのような状況に置かれている抑圧的な社会を変えていくという視点を持つという姿勢が必要ということだろう。当事者については、本人が持つ力に本人が気づくという意味でのエンパワメントが必要だ、というような理論と呼ぶことができるだろう。このAOPAnti-Oppressive Practice(反抑圧的実践)の略なので、ソーシャルワークという領域に限定しなくてもいいのではないか、と思うのだけど、この本にはそんなことは書いてなくて、既存の数少ない日本語文献に倣ったとある。そこでも Anti-Oppressive の訳し方には言及しているだけで Practice の訳し方には言及してない。

 ともあれ、当事者を抑圧している社会にも注目し、その社会を変えていく視点を持たなければならない、という視点は社会運動からソーシャルワークという領域に入ってきたぼく(本当にそうかは不明だが)にはとても親和的な理論でもある。ぼくなりにまとめると、AOPで求められる姿勢は以下じゃないかな。

変えなければならないのは本人でなく、まず、社会であり、当事者はさまざまな意味で抑圧された現在の生きにくい状況を超えていく力があると信じて、「助けてあげる」というのではなく、一緒に困難を超えていくという姿勢だ。

 このような姿勢や視点が求められ、そのためのソーシャルワーク教育がカナダでは行われているとのこと。「ほんとかよ」と思わないわけでもないが、この本には、そんな風に書かれていた。

 AOPやこの本について、より詳しく知りたい人は現代書館による上記のnote(主にこの本に触れた記事は2本)の他に野口晃菜さんが書いた「他者と自分の権利を大切にするために必要な視点」というテーマでこの本を紹介したエッセーもウェブ上にある https://co-coco.jp/books/4768435823/ ので、ぼくの独断的な「ほんの紹介」より、参考になるはず。あと、僕のメモはまだ書き終えていない(2022年9月4日)のだけど以下。

その1 https://tu-ta.seesaa.net/article/202207article_1.html

その2 https://tu-ta.seesaa.net/article/202208article_2.html

その3 https://tu-ta.seesaa.net/article/202208article_3.html

その4 https://tu-ta.seesaa.net/article/202208article_4.html

その5 https://tu-ta.seesaa.net/article/202209article_1.html

 そう、変えなくちゃいけない現状が多すぎるのに、見て見ぬふりをする「福祉関係者」のなんと多いことか、と感じている(ぼくも時に見ないふりをしていることもあるけど)。そもそも日本の福祉教育はそんなことをちゃんと教えないし。

 もちろん、すぐに変えられないことは多い。例えば、ある地域で入所施設に入るしか選択肢がないような状況がすぐに変えられるだろうか?仕組みがあっても、支える人がいなければ、家族に頼らない在宅の暮らしは成立しない。

 障害者雇用の賃金の低さを変えられるかと言えば、変えられない。しかし、そんな低賃金でも就労すること自体が悪ではないし、働きたいと思うのは、外からの圧力の場合もあるけれども、内発的な動機であることも多い。

 変えられないけど、おかしいと思い続けること、機会があるごとに声に出すこと、声を出す機会を作ること、効果的に出来ることを考え、変えるために出来ることをあきらめないこと、そして、多様性と変化に柔軟であることが大事だと思う。

 重い知的障害のある(と呼ばれる)人の多くが、住み慣れた地域で、同世代の障害のない(と思われている)人と同様に生活し続けることが困難な現状を変えるために、何ができるかを考えることもAOPにつながっていると思う。

 さらに書いてあることで注目したのは、ソーシャルワーカーが立っている位置に自覚的でなければならないということ。その位置が持つ、自らの権力性や抑圧性に内省的でなければならない、同時に、社会はすぐには変えられなくてもいつか変えられるはずという楽天主義のもと、【焦らず、腐らず、声をあげ続ける】という姿勢も。

 この紹介続けるかも?

~~原稿ここまで~~

翌月書いたこの続きは

AOP(反抑圧実践)が必要な理由『脱「いい子」のソーシャルワーク』その2
(ほんの紹介54回目)
https://tu-ta.seesaa.net/article/493017321.html

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック