『食べる経済学』の感想と読書会の感想
*テキスト:下川 哲『食べる経済学』(2021年12月、大和書房、1700円+税)
*報告:中田哲也さん(「フード・マイレージ資料室」主宰)
この日の白川さんによる案内は以下
みなさま。いま、エネルギーと食料品の価格が高騰し、毎月のように値上げが続いています。昨年から原油やトウモロコシが値上がりしつつあったところに、ウクライナ戦争の勃発によって物価高騰に拍車がかかりました。輸入に過度に依存する日本はその弱点をもろに突かれ、急激な円安も加わって輸入インフレが起こっています。新型コロナのパンデミックとウクライナ戦争は、グローバル化によって安い食料を供給したり買い入れるという従来の経済や生活のあり方に根本的な見直しを迫っています。気候危機の深刻化と脱炭素化の流れも、食料価格の上昇を避けがたいものにしながら食料の生産や食生活のあり方を否応なく変化させつつあります。食料の問題が、エネルギーの問題と並んで、これからの世界と日本の経済、私たちの生活様式を左右するカギの1つであることは疑いようもありません。
そこで、食料生産や食料市場の現状を具体的に把握しながら、気候危機や人口問題、食の安全性や食品ロス、食の地域自給といった観点から食料の問題をテーマに取り上げます。軍事と結びついた「経済安全保障」や「食料安全保障」とは別の、食料の生産・加工・消費に関するオルタナティブを探ることができればと思います。
https://food-mileage.jp/2022/08/02/blog-389/
この中田さんの報告を私も遅ればせながら、先ほど読ませていただきました。(もしかしたら、掲載当時にも読んでいたかも)
あの日の「読む会」のていねいな報告になっています。(そこは読んでいただければと思います)
そのうえで、当日提出されたさまざまな意見もコンパクトにまとめてあります。(ここも興味深いので、関心がある人はぜひ読んでください)一人でも多くの人に読んで頂きたい好著。
イラストを活用するなど平易で分かりやすい文章で書かれており、一般の方向けの入門書として最適。同時に、豊富な研究事例の引用や充実した参考文献リストなど、研究者や専門家にとっても非常に有用。その上で、新たな疑問が生じてきた。
現在のウクライナ情勢や世界の食料情勢を踏まえた場合、果たして個々人の「気づきと選択」に任せておくだけで十分だろうか(本書が刊行されたのはウクライナ危機発生以前の昨年12月)。
中長期の地球環境問題への対応も重要ながら、今や、足元の食料安全保障(食料の安定供給、「食べる」こと自体)が脅威に晒されているのではないか。現在、与党や政府のなかでも食料安全保障に関する議論が盛んとなっており、食料・農業・農村基本法を改正する動きもある。
一方で、国家が食料安全保障を声高に唱えることについては、歴史的な経緯を踏まえても危惧を覚えざるを得ない。
であれば、やはり、個々人(市民)の「気づき」と「主体的な選択」を基本とせざるを得ないのではないか。と、結局、テキストと同じ結論に至った次第。
確かに考えるきっかけを与えてくれる本であることは間違いない。 著者は市場の仕組みを持ち上げておきながら、市場の仕組みでどうにもならない問題をたくさん書いているし。明確な解決策がないとも書いていたように思う。 私や私の身近にいる人たちはローカルな地域循環に軸足を移していくという方法を推奨してきたが、確かにそれだけでは足りない部分もあるかもしれないと思った。
そして、市場が支配しているこの社会で、ローカルな地域循環を軸とした社会にどのように転換していくかという具体的で実現可能なロードマップを書くことに誰も成功していない。気候危機で破滅に向かう社会にブレーキをかけることに失敗しているだけでなく、こんな状況で戦争が行われ、危機は深化いていく一方だ。破滅を見届けるしかないという絶望的な気分にもなってくる。まあ、ぼくが生きている間には破滅することはないだろうけど。しかし、あきらめたらゲームオーバーなので、見えない可能性にかけて、できることを続けるしかない。
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