『ケーキの切れない非行少年たち』メモ

ケーキの切れない非行少年たち  (新潮新書)

宮口 幸治著

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以下、読書メーターに書いたメモ


38頁に『反省させると…』という本に言及している。形だけの反省をせまってもダメという本だった。このケーキ本にはその本に関して「反省できるだけでも上等じゃないか」と書かれているが、形だけの反省を求められた子どもたちはこの本の登場人物同様に理解できないままだったのではないか。また、126頁あたりには自尊感情についての言及があり、その表現から卒業したらどうかと書かれる。彼や彼女を取り巻くコミュニティとの関係で自尊感情は育つはずだし、それは大事なことなんじゃないかと思うのだけど、どうなのだろう?
(ちなみに『反省させると…』という本に関して、ぼくはけっこういろいろ学んだ気がする。メモは https://tu-ta.seesaa.net/article/201312article_1.html )


126頁で著者は自尊感情は低くても、ありのままの現実の自分を受け入れていく強さが必要だと書くのだが、その「ありのままの現実の自分を受け入れていく強さ」を自尊感情と呼ぶことができないだろうか?


その自尊感情の話のすぐ後にあるのが、子どもへの支援が大きく3つに分かれるという話。その3つとは「学習面」「身体面」「社会面」。そして、その社会権の支援が重要であるにもかかわらず学校教育で系統立ててはほとんど何もなされていない、と書く。


最初のコメントに書いた、著者の「特別支援教育につながっていたら、彼も少年院に来ていなかったし、被害者も作らなかった可能性もあった」(95-95p)という主張だが、そこにあるのが「特別支援」だから、つながることが出来なかった、そうではなくインクルーシブに、一人ひとりの子どもを見ていける教育があれば、犯罪を起こさなかったという風に考えるべきだと思う。


「社会面の支援とは、対人スキルの方法、感情コントロール、対人マナー、問題解決力といった、社会で生きていく上でどれも欠かせない能力を身につけさせること」(127p) こういうこと、確かに年齢に応じて身につけていれば、生きやすくなるだろうが、学校で身につけるべきことなのかどうか、カリキュラムに入れることが出来るか、微妙な問題は残りそう。


WISC検査は子どもの能力の一部しか見ていない。再現力や描写力は測らないし、思考の柔軟性の検査もない。対人コミュニケーションや臨機応変な対応も測られないので、IQは高いが融通が利かない、IQは低いが要領がいい、といった子どもの特徴は見落とされがち。「ザル検査」(135-136p)。また、SSTも前提の認知力が必要なのに、それを見ないでSSTが行われ、SSTが形式的な対応になっている(139ー140)。


鑑別所の意見書には問題点の記述はあり、抽象的なコメントで必要な指導方法は書かれているが、実際にどうしてそうした能力を改善するかのヒントはほとんどない。少年院でも「その少年たちの再非行をどうしたら防げるのか」といった具体的な処遇案はほとんど語られない(141p)。


『性の問題行動をもつ子どもたちのためのワークブック ーー発達障害・知的障害のある児童・青年の理解と支援』(明石書店)、著者が作成したこの本を発達障害や知的障害の性加害少年に使っていたとのこと。


第7章には少年院に入って8カ月くらいから肯定的に大きく変わり始める少年の声が記載され、共通するのは「自己への気づき」「自己評価の向上」という二つにまとめることが出来ると著者は書く(149-150p)。そして、勉強嫌いにさせられた彼らがそれを可能にするベースを作るための提案がなされる。それは、彼らに教員に代わって教えてもらうこと(155p)。ただ、ベースとなる認知機能に課題を抱える彼らが、どのように「教える側」に立つことが可能になるのかということについての記載はなかった。


上記に続けて、認知機能トレーニング(コグトレ)の紹介がなされる。このコグトレの詳しい内容についてはこの本の著者による『コグトレ――みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング』(三輪書店)に詳しい記載があるとのこと。認知機能を構成する5つの要素(記憶、言語理解、注意、知覚、推論・判断)に対応する「覚える」「数える」「写す」「見つける」「想像する」の5つのトレーニングからなっているとのこと。この中で言語理解に対応するのは何だろう。順番だと「数える」になるが、それはなさそう。


「人を殺してみたい」という気持ちが消えなかった少年に【・数える:「記号さがし」】を取り組んでもらったとのこと。いろんな果物のマークが複数段並んでいる表でリンゴだけをチェックし、数えて、決められた特定の果物が出てきたら、ストップ。そのストップする練習とのこと。こんな認知トレーニングを組み合わせることが、殺したい気持ちをストップするのに役に立つとか。164-165頁


コグトレは『漢字ドリルや計算ドリルを行う上で、さらに土台となる認知機能トレーニング』とのこと。勉強につまずいた人に、そこから再度、チャレンジしてもらうのはいいかも。165頁


感情のペットボトル。さまざまな気持ちを貼った500mlのペットボトル。”怒り”の気持ちだけ2リットルのペットボトル。怒りの感情がトラブルの原因になるから。"うれしい”は水を入れずに空に。次に大きな袋を準備し、これを袋に詰めて、子どもに担がせる。次に1本ずつ、ペットボトルを出していく。気持ちを表現することで楽になることを学ぶというもの。これはコグトレの社会面のトレーニング。ペットボトルを作るプロセスは書いてないが、どんな感情があるか、子どもたちに聞いて、ボトルを作るのもありかも。空に出来るのは他に楽しいとか


上記は167-169頁。その少し前に、コグトレはゲーム感覚で楽しみながら出来る。出来なくても傷つかない、と書かれている。166頁


身体面のトレーニングに関してはこの著者たちが作った『不器用な子どもたちへの認知作業トレーニング』(三輪書店)という本があるとのこと(170頁)。『ケーキの切れない』というキャッチ―な言葉を見つけて、本が売れて、相乗的に著者のいろんな本も売れてるんじゃないかなぁ。


170頁からは脳機能と犯罪の関係について書かれている。微妙な問題だ。死刑が執行された池田小学校事件の犯人の脳MRIや脳SPECT(脳血流断層撮影)の異常について書かれている。他にも米国における脳機能障害と犯罪のさまざまな事例、例えば刑事責任に問われなかった事例も紹介される。日本ではそれが裁判の焦点になる事例は少ないとも。 もちろん、犯人の脳機能に異常があっても、慎重な議論が必要だが、脳機能に対応した認知機能のトレーニングが矯正現場で必要で、それが再犯率を下げる上で重要な意味を持つと書かれている。


上記は差別につながる危険もあるので、さらに慎重な書き方が必要なのではないかと思った。


性犯罪と脳機能についても、これまで幾つかの報告がなされているが、見解は統一されていないとのこと。影響あり、影響なしという両方の報告が紹介されている。174-175頁


虐待と非行化のリスクというのも微妙な話ではある。虐待がもたらす心の病については医療機関で対応するが、虐待がもたらす非行化については、「なかなか手立てがありません」と書かれている。そして、認知トレーニング(コグトレ)が、そういった子どもたちへの治療となる可能性があるとのこと。(178p)


178頁からは受刑者を減らす「経済効果」という観点から書かれている。そのためには「困っている子ども」の早期発見と支援が必要だと。それも大事だが、もっと容易にできるのは、再犯を防ぐ、s刑務所などの矯正施設内でのていねいな教育や支援、そして、矯正施設内外をつなげる回路をもっとオープンに開き、出所後に住む場所で支援する人と入所中にちゃんとつながれることではないかと思う。


「おわりに」で著者は発達障害に関する書籍はたくさんあるのに、「知的障害に関する書籍は注意しないと見つけることすら困難」とある(181p)。言われてみると確かにその通りだ。 「できるようになること」だけに注目するのはどうかと思うが、認知トレーニングなどで、困っている状態が軽減できるのであれば、否定する必要はないだろう。本当に軽減できるかどうか、やってみないとわからないが・・・。 もし、効果があるのであれば、就労移行やB型や生活介護などの日中支援で試す意味はあるかも。

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