『人の心に働きかける経済政策』メモ

この本、PP研の第12回「経済・財政・金融を読む会」https://www.peoples-plan.org/index.php/2022/10/04/post-440/
のテキストとしてざっくり読んだ。

岩波のサイトは https://www.iwanami.co.jp/book/b597623.html

ここでの内容紹介は以下

感染抑止のために行動変容を促す国民の心への働きかけと、デフレ脱却を目的とした人々の期待への働きかけ。この二つの「働きかけ」は、背景とする人間観(と経済学)が違う。行動経済学の成果を主流派のマクロ経済学に取り入れた公共政策を、銀行取付、バブル、貿易摩擦、日銀の異次元緩和などを題材に考える

内容についてはほとんど覚えていない。前半と後半に分けて、この本の紹介をしている文章を読んだおぼろげな記憶もあるが、それがどこにあるかも忘れた。

ただ、外国人政策について触れたところが興味深かったので、抜き出してみた。

「日本人の多くは、外国人労働者は自然に日本社会に溶け込んでくれる、と思い込んでいるようである」(77頁)この楽観は他国に比べて突出している、というようなことを書いた後に、以下のように書かれている。



将来の日本社会を混迷させる現在バイアス

 この楽観は長続きするだろうか。将来に目を向けると大きな懸念が存在する。移民受け入れが急拡大してきた一方、あくまで出稼ぎ労働者であり、他国民というフレーミングがその人たちを労働力でなく人間として受け入れる体制を大きく立ち遅れさせているからだ。

 ドイツで外国人犯罪比率が高いのは、多くの外国人をドイツ社会から疎外し孤立させた結果だった。日本でも法務省・法務総合研究所の報告書は、二〇一一年の外国人窃盗・強盗犯罪者を精査し、その四分の三は日本語の読み書き能力が不十分であったことを指摘している。こうした分析に照らすと、事実上の移民やその子どもたちには日本国民であろうとなかろうと、日本人と同等に日本語や日本社会についての基礎知識を確実に習得してもらうことが必要だ。 しかし、「彼らはとどまることはない、いつか去る、移民とは異なる出稼ぎ労働者なのだ」と位置づけられてしまった人たちやその子どもへの支援体制は十分でない。

 日本の移民受け入れ体制は、国際的にみてどの程度の位置にあるのだろうか。国際比較の材料として移民統合政策指数(MIPEX:Migrant Integration Policy Index)がある。

 二〇二〇年一二月の第五回調査では、5か国の移民統合政策を8つの政策分野(労働市場、家族呼び寄せ、教育、政治参加、永住、国籍取得、反差別、保健)について、167の政策指標を設け、各国の移民政策研究者が協力して数値化している。

 総合評価では、スウェーデンが1位(86点)であり、フィンランド、ポルトガルと続く。アジアでは、韓国が19位(56点)で最も高く、日本は35位(47点)にとどまる。教育は33点と極めて低く、将来の日本社会に大きな影響を与えるはずの外国人の子弟が置かれている状況が深刻であることがわかる。

 外国人子弟は日本国民ではなく、義務教育の対象とされていない。このため、十分な教育機会が与えられていない。二〇一九年九月、文部科学省は、日本に在留する義務教育年齢(6~14歳)の外国籍の子どものうち約2万人が未就学状態にあると推計した全国調査結果を発表した。また、高等教育の機会は日本国民と留学生のみに開かれ、定住外国人の子弟にはほぼ閉ざされている。二〇二一年八月二八日の『日本経済新聞』は、移民統合政策指数のなかで、外国人生徒の大学進学や入学後の支援策に関する「高等教育へのアクセス」の項目で、日本については、二〇一〇年以来「0点」が続いていると報じている。欧州の経験に照らしても、こうした状況は、移民の子どもの孤立、将来の就職難、貧困、犯罪多発などにつながる可能性が高い。

 なお、移民統合政策指数における個別成績のなかでは、労働市場は比較的高い。しかし、日本は外国人労働者を使い捨てにして苛酷に扱っている、という認識は残念ながら海外に広がっている。2021 年七月一日に米国国務省が発表した世界各国の人身売買に関する報告書では、日本の外国人技能実習制度が指弾されている。国内外の業者が外国人労働者搾取のために悪用し続けていると指摘し、日本は「人身取引撲滅のための最低基準を十分には満たしていない」とした。

 それでも、コロナ禍が収束すれば、外国人労働者は再び大きく増加するだろう。現在、日本のさまざまな職場は外国人労働者に支えられ、日本は外国人労働者を抜きにしては回らなくなってきているからだ。企業の人手不足を外国人にたよることの目先の経済的メリットは大きい。日本社会に迎え入れるためのさまざまな費用をかけずにすむ安上がりな出稼ぎ労働者という位置づけは、政府や企業の短期的なメリットを大きくする。他方で、そのことは、定住外国人やその子弟を日本社会から疎外し十分に教育を受ける機会を与えない状況が続くことを意味する。そしてそれは、将来の日本社会を不安定化させる。また、東アジアの少子高齢化が進むなかで、将来的に日本で働いてもよいと思う人々を減らしてしまう、という形でも長期的な社会的コストを大きくする。「現在バイアス」を強めるフレーミングは将来の日本社会に極めて大きな負担をもたらす可能性が高い。78-81頁


第3章 マクロ的な社会現象へのフレーミングやナッジ から




この記事へのコメント