『彼は早稲田で死んだ』について (ほんの紹介60回目)
たこの木通信2023年2月号に掲載てもらった原稿。リンクを挿入し、読み返して補足したくなった部分やその後の情報も含めて掲載。
『彼は早稲田で死んだ』について
(ほんの紹介60回目)
『彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠』(樋田毅著、2022年文藝春秋)。1972年、早稲田大学構内で、文学部2年生の川口大三郎さんが、自治会を暴力的に支配していた革マル派によってリンチされ虐殺された。その事件前後の話と、そこに加害者側としてかかわった人をその後取材した記録。著者はその責任を追及した側の学生だった。卒業後、朝日新聞の記者になり、同僚が殺害された『赤報隊事件』も追いかけ続けた人でもある。若い人にはこの時代の空気感はわかりにくいかもしれない。BOOKウォッチというサイトの書評 https://books.j-cast.com/topics/2021/11/12016476.html から雰囲気は少し読み取れるし、「かけはし」という新左翼党派の新聞のこの本の書評もWEBで読める。https://www.jrcl.jp/culture/27275-1/ ぼくもかつてここに関係していた。ここでも当時の雰囲気を少し知ることが出来るが、内ゲバは否定しても暴力革命は肯定している党派?(少なくとも、ぼくが関係している頃はそうだった)の新聞として、暴力そのものをどう捉えるかという視点は感じられない。(この部分、末尾に追記)
ぼくがこの本に興味を持ったのは、辻信一(大岩)さんが加害側の当事者として、著者からインタビューを受け、その記録が掲載されているという話を聞いたからだった。彼がここで何を表現しているのか、ずっと気になっていた。複数の人からの、そこでの辻さんの対応への不満も聞いていた。しかし、なかなか読めず、少し遅れて読んだ。
この対談、辻さんは真摯に受け答えをしてるように読めた。現状でせいいっぱいの真摯さで受け答えしているのだろうが、同時に、早稲田で自分がしてしまったことにちゃんと向き合えていないとも感じた。それと向き合うことから逃げている感は否めない。それしかできないのが彼の現状なのだと感じた。辻信一さんによる『スロー』や『強さに頼らないあり方』の提唱には、惹かれていて、説得力もあるだけに、それを前提として、自らの過去にちゃんと向き合うことが出来れば、暴力に関するすぐれた考察が描けるはずなのに、そこに向き合えていないのは残念。
また、この本に描かれた「武装」「暴力」に関する考察を、革命の暴力や国家の武装にまで敷衍して考えることもできると思った。学生時代、内ゲバに反対しつつも、革命的暴力を肯定していた自分がいる。そのことをいまだにちゃんと総括できていない。そんな過去をなかったことにして、軍隊を否定する9条国家を標榜してはいけないと思う。何かの大義のためと暴力の行使を肯定するときに、大切な何かが失われていく。しかし、非暴力での抵抗の困難はある。国家と暴力は歴史の中で例外なく結びつき、軍隊の暴力行使と政治権力の腐敗は同伴していた。民衆による革命で生まれた政権でさえ。 また、ウクライナに対するロシアの侵略にどう対抗すべきか、ウクライナへの武器援助の可否をどう見るかという問いにもつながる。この本に描かれた(ある意味)小さな大学闘争のなかにある非暴力を貫くことの困難さを国家まで敷衍することの果てしない困難さを感じないわけではないが、それでも、おかしいものはおかしいと主張し続けたい。
いきなり話は飛ぶのだが、誰かがSDGsに核兵器のことや武器売買のことが描かれていないのがおかしい、それが重要なのにと言っていたが、その通りだと思う(戦争に関する記述はある)(末尾に資料追記)。そして、それはいまの国連では一致できない部分でもある。サステイナブルというとき、大きくそれを妨害しているのが膨大な軍事予算であり、武器を持ってにらみ合い戦争する世界の現状なのではないか。その武器商売で潤っている人や企業は多い。戦争が前提の現状こそが変えられなければならない。
また、飢えて死ぬ人や、治せるはずの病気なのに医療にアクセスできず死ぬ人が多数いる社会で、それにお金を使わず、武器や軍隊に膨大なおかねが使われているのはどう考えても、おかしい。
早稲田大学における一人の学生が革マル派に殺された話から、そんなことまで連想させる、いい本だとぼくは思った。
~~原稿、ここまで~~
以下、追記
この本に関するもう少し詳しい読書メモを書いたつもりがほとんどこの原稿と同じものしか残っていなかった。
https://tu-ta.seesaa.net/article/202202article_5.html
この記事や「かけはし」の書評を読んで、辻さんのインタビュー部分、もう一度、読んでみたいと思った。
「かけはし」の書評を書いたのはぼくもよく知っている平井純一さん。本文では批判的なコメントも書いたが、この書評の最後に近い部分の以下はとても共感できた。
私たちは、「不寛容に対して私たちはどう寛容で闘いうるのか――。早稲田のあの闘いから半世紀を経た今も、私は簡単には答えを出すことのできないこの永遠のテーマについて考え続けている」という著者の締めくくりの言葉を共有して、これからも闘っていきたい。
この本の出版社のサイトは以下
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163914459
ここ一見、なんの情報もないが、試し読みからプロローグと1章(計11ページ分)を読むことが出来る。
映画も作られているらしいが、上映の情報がない。
https://kare-wase.net/
以下、旧知の大橋正明さんの「第5回アーユスNGO大賞受賞」あいさつ
https://ngo-ayus.jp/activity/award/17ohashi/
から引用
今日のこの私がここにあるのは、早稲田大学文学部二年の川口大三郎君を革共同革マル派の自治会幹部が1972年11月8日に文学部自治会室でリンチ・虐殺して遺体を投げ捨てたことに怒った学生たちの運動に、私自身は大学1年の時から深く関わったこと、このために三週間余り警視庁新宿警察署の豚箱にぶち込まれたこと、しかしそこで忘れられない貴重な経験をしたこと、その後大学から逃げ出すように渡ったインドの最貧のビハール州で今も続く出会いや重要な出来事の経験があったこと、そして早稲田の仲間に誘われて1970年代後半からシャプラニール=市民による海外協力の会に関わるようになったお陰です。
素敵な知人なのですが、こんな過去があることを知らなかった。
川口さんの虐殺事件に関して、超詳しいのが以下のサイト
川口大三郎君追悼資料室
http://www.asahi-net.or.jp/~ir8h-st/kawaguchitsuitou.htm
SDGsと戦争について。
SDGsの目標の16は「平和と公正をすべての人に」
そして、この項目のターゲットは以下 https://sdgs.edutown.jp/info/goals/goals-16.htmlから
12個のターゲット
- 16.1 あらゆる場所において、全ての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる。
- 16.2 子供に対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。
- 16.3 国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、全ての人々に司法への平等なアクセスを提供する。
- 16.4 2030年までに、違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、奪われた財産の回復及び返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する。
- 16.5 あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる。
- 16.6 あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる。
- 16.7 あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する。
- 16.8 グローバル・ガバナンス機関への途上国の参加を拡大・強化する。
- 16.9 2030年までに、全ての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する。
- 16.10 国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する。
- 16.a 特に途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関するあらゆるレベルでの能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する。
- 16.b 持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する。
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こんなので戦争は止められないだろうと思う。
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