『記憶の継承 ミュージアムガイド』メモ 新聞記事追記
本の正式なタイトルは
https://www.libro-koseisha.co.jp/history_culture/978-4-7744-0760-9/
こんな紹介がある。目次は紹介される主要なミュージアムのリストでもある。
全国各地の資料館・記念館・歴史館等から、激動の近現代史に着目し、歴史の風化に抗して活動するユニークな施設を厳選したガイドブック。体験者・当事者が少なくなるなかで、みずからの歴史とどう向き合い、その記憶をどう伝えていけばいいのか?戦争、病い、民族、差別、公害、震災など、苦難の歴史に刻まれた災禍と文化を伝える23館を紹介します。コロナ禍の今こそ、先人たちの苦難の歴史に学んでみませんか?
編者 皓星社編集部
発売日 2022年3月25日
ページ数 183 ページ
定価 1800円(+税)
目次
1 戦禍・災厄の記憶と死者の想い
原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)
戦没画学生慰霊美術館 無言館(長野県上田市)
2 忘れ去られる戦争体験の声をきく
ひめゆり平和祈念資料館(沖縄県糸満市)
沖縄県平和祈念資料館(沖縄県糸満市)
アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(東京都新宿区)
3 戦災の記録と記憶を受け継ぐために
東京大空襲・戦災資料センター(東京都江東区)
舞鶴引揚記念館(京都府舞鶴市)
4 近代史の中の苦難の道のりを見つめる
水俣病歴史考証館(熊本県水俣市)
水俣市立水俣病資料館(熊本県水俣市)
満蒙開拓平和記念館(長野県下伊那郡阿智村)
〈ギャラリー〉絵とモノが語り伝える記憶
5 民族の歴史と文化にふれる
国立アイヌ民族博物館(北海道白老郡白老町)
平取町立二風谷アイヌ文化博物館(北海道沙流郡平取町)
【在日コリアンの歴史と日韓の記憶をたどる】
在日韓人歴史資料館(東京都港区)/2・8独立宣言記念資料室(東京都千代田区)/ウトロ平和祈念館(京都府宇治市)ほか
6 差別と迫害の中に生きた人びとの声と夢
長島愛生園歴史館(岡山県瀬戸内市)
重監房資料館(群馬県吾妻郡草津町)
国立ハンセン病資料館(東京都東村山市)
ホロコースト記念館(広島県福山市)
7 未来に伝える災厄の教訓と記憶
リアス・アーク美術館(宮城県気仙沼市)
読書メーターの最初のメモ
「記憶の継承」に関するこれだけのミュージアムがあり、公的な歴史が触れたがらない日本の負の歴史を正面に見据えたミュージアムが存在しているということに希望があるように感じた。 ただ、楽観できないのは大阪市の事例のように、そのように真摯に歴史に向き合おうとするミュージアムが政治の力で後退させられるという事例もあること。時代は単純に悪くなったり、良くなったりしているわけではないということが、この記憶を継承するというミュージアムのことを考えていたら見えてくる。しかし、この本には消されたミュージアムや後退の話はない。
~~以下、追記~~
「記憶の継承」を好ましく思っていない勢力に消されたミュージアムの話は以下
リバティおおさか、再開断念 資料3万点は大阪公立大に寄贈へ
https://mainichi.jp/articles/20230330/k00/00m/040/209000c
この記事によると、
大阪府知事や大阪市長を務めた橋下徹氏らが展示内容や運営に異議を唱え、府・市が13年に補助金を全廃。15年には同館が建つ市有地の明け渡しを求める裁判を市から起こされ
別の場所での再開をめざしたが断念した、という話だ。
~~追記、ここまで~~
ホロコースト記念館の記述で、栗原貞子さんの『ヒロシマというとき』 を思い出した。
詩は以下で読める。
有名な詩なので、引用するまでもないと思いつつ、冒頭部分を少し引用。もっと長い詩なので、全文を上記のURLから見てください。
栗原貞子『ヒロシマというとき』
〈ヒロシマ〉というとき
〈ああ ヒロシマ〉と
やさしくこたえてくれるだろうか
〈ヒロシマ〉といえば〈パール・ハーバー〉
〈ヒロシマ〉といえば〈南京虐殺〉
〈ヒロシマ〉といえば 女や子供を
壕のなかにとじこめ
ガソリンをかけて焼いたマニラの火刑
〈ヒロシマ〉といえば
血と炎のこだまが 返って来るのだ
〈ヒロシマ〉といえば
〈ああ ヒロシマ〉とやさしくは
返ってこない
アジアの国々の死者たちや無告の民が
いっせいに犯されたものの怒りを
噴き出すのだ
〈ヒロシマ〉といえば
〈ああヒロシマ〉と
やさしくかえってくるためには
捨てた筈の武器を ほんとうに
捨てねばならない
異国の基地を撤去せねばならない
その日までヒロシマは
残酷と不信のにがい都市だ
私たちは潜在する放射能に
灼かれるパリアだ
(以下、略)
ホロコーストと現在のイスラエル・パレスチナの問題をどのように重ねて考えたらいいのか、難しいのだが、避けて通ってはいけないように思う。そこに言及した記述がなかったのが、少し残念。
いまさら気がつくのだが、この詩は植民地主義を反省する観点からヒロシマを振り返った詩である。その歴史的な視点こそが、この本の紹介にある「激動の近現代史に着目し、歴史の風化に抗す」ということにつながるのだと思う。
以下、気になったところ、知らなかったところ、ピックアップ
印象的だったのが飯田市にある満蒙開拓平和記念館の館長の寺沢さんの以下の発言
「加害と被害が重なった歴史の、どちらかに傾き過ぎないように展示に工夫を凝らしました。客観的資料や写真、当時者の証言で史実を淡々と伝える。来館者がそれを観てなにを感じるかはそれぞれに委ねる。そういう場であり続けたいのです」
「元開拓民の中には、当時の国策のなかで自分たちがどう位置づけられていたのか、全体図のなかで見ることができないままだった人もいます。展示を見て初めて『俺たちは結局、満州防衛を手伝わされるために送り込まれたのか』とか『だから日本が降伏するや、中国の人たちはあんなに怒ったんだ』などと過去を整理された人も。・・・日本は戦争をしたまま、そこから学ぶ機会を逃してしまっていたんです」
96頁
ウポポイ(国立アイヌ民族博物館)の展示の主語がすべて「私たちアイヌは」に統一されているとのこと。ここが出来てから北海道に行っていない。いつか行ってみたいもの。
また、麻布に「在日韓人歴史資料館」というのがあるとうことも知らなかった。韓国中央会館の別館にあるとのこと。日曜月曜が休み。
京都・宇治市のウトロ平和記念館はこの本が書かれた段階ではまだ開館していなかったらしい。
現在はすでに開館している。金・土・日・月曜日 10:00~16:00(火・水・木曜が休み)
目次にはない『もうひとつの歴史館・松代』
http://www.matsushiro.org/aboutus/tenjisit20221002.htm
も行ってみたいと思った。
長島愛生園歴史館
ここには無料の見学バスや見学クルーズが、それぞれ1カ月に1回程度あるとホームページにあった。
http://www.aisei-rekishikan.jp/tour.php
しかし、よく見ると、クルーズの運行の案内は去年までの分しかなく、バスも2023年4月までとなっていた。
草津温泉の近くの栗生楽泉園の隣に「重監房資料館」というのが2014年にオープンとのこと。
このホームページには以下の説明がある。
当館は、ハンセン病隔離政策を象徴する建物であった特別病室(重監房)を負の遺産として後世に伝え、人権尊重の意識向上に役立つ教訓とするため、平成26年4月30日に厚生労働省が設置した国立の資料館です。
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原爆の図丸木美術館が冒頭に紹介され、表紙にも使われていたという興味から手にとった本だが、興味深いミュージアムがいっぱいあった。
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