NHK・ETV特集『鍵をあける 虐待からの再出発』について(ほんの紹介66回目)
8月のたこの木通信に掲載してもらった「ほんの紹介」掲載。
また、この番組に対する専門家の批判とその批判に対するぼくの違和感を書いた。また、最後に明らかになった大川さんの同愛会の事業所での虐待にも少しだけ触れた。
~~まず、原稿~~
予定を変更して、表題の番組が印象的だったので紹介。NHKで放映された中井やまゆり園に関する上記の番組。NHKのサイトでの番組紹介は以下の通り。
知的障害者施設の元職員が入所者19人を殺害した相模原障害者殺傷事件から7年。その後、神奈川県がすべての県立の入所施設を調査したところ、虐待や不適切な行為が次々と発覚した。県立中井やまゆり園では、自傷や他害など強度行動障害が見られる入所者の長時間にわたる居室施錠も数多く報告された。鍵を開き、一人ひとりの入所者たちと向き合う。模索しながら新たな暮らしをつくろうとする2年間を記録した。
この2年間の記録には、さまざまな意味で考えさせられた。中井やまゆり園の取り組みは神奈川新聞の成田記者の連載レポートで読んでいたものの、やはり映像でみるインパクトは大きい。調査の結果と処分の対象とされた虐待、管理者の処分内容は神奈川県のホームページにあるのを後で知った。知事を筆頭とする管理者が処分の対象。
番組で印象的だったのは、それまで1日に20時間も鍵のかかった部屋に入れられていた行動障害のある知的障害者。スタッフは彼とのコミュニケーションをあきらめ、部屋に閉じ込めていた。虐待からの再出発のプロジェクトが始まり、園長がその彼に直接謝罪する。対話が始まり、少しずつ心を開き、閉じ込めから園外での活動へと活動範囲が広がっていく姿が描かれていた。どうして、いままでそんな当たり前のことが出来なかったのかと思わないわけではないが、そこからスタートせざるを得ない現実がある。同時に、1時間のテレビ番組にするために単純化された部分があるだろうことも留意する必要があるだろう。
そして、大切だと思ったのは入所施設を『終の棲家』にしないというのが番組で表現されていたこと。入所施設は、いまそこにいるメンバー 一人ひとりが地域に戻っていくための通過施設になることが求められている。この番組を紹介するフェイスブックでの黒岩神奈川県知事のコメントについて、ぼくが自らの責任はどうなのかと批判的なコメントを書いたら、知事から以下のようなレスポンスがあった。
番組では放送されませんでしたが、私自身、先日、中井やまゆり園に伺い、利用者のみなさん全員に一人一人、直接お詫びをしてきました。二度と、あんな嫌な思いをすることのない施設に変えていくからねとお約束してきました。
ぼくは知らなかったことを謝罪したうえで以下のように書いた。以下抜粋(すべてのやりとりはブログに記録している)。
自らが出来ていなかったことを正直に認め、それを公開出来たこと、当たり前のようですが、これがなかなか出来ない事業所は多いのです。自らの失敗を棚に上げ、対話を拒否する事業所。他人ごとではありません。自分が働いている場所がどうなのかが問われます。
中井やまゆり園で、それをしっかりオープンにできたということは素晴らしいと思います。
そして、思うのです。津久井やまゆり園ではどうだったのだろうと。
想像してしまうのは、閉じ込めが常態化してしまうような人権を無視した支援を目にしたU死刑囚が、「殺す」という選択肢を選んだのではないかということ。
こここそが、津久井やまゆり園事件で解明しなければならない大きなポイントではないかと思うのでした。
忘れてはいけないのは、2023年の今でも、親の支援がなくなったとき、本人が希望しないのに、生まれ育った地域から遠く離れた入所施設やGHを選ばざるを得ないという現実があるということ。望まないのに、それを選択せざるを得ないという現実をどう変えていくのか、そここそが大切だと思う。黒岩知事とのやりとりは続き「津久井やまゆり園でも起きていたに違いありません。それどころか、おそらく全国の知的障害者施設で」という。他も紹介したいが紙面が尽きた。中井やまゆり園でのこの取り組みが仕組みとして保障され、全国に広がって欲しいと思った。
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ぼくはここに書いたように、この番組にかなり感動していた。
しかし、放映された後に専門家からかなり批判されていた。例えば以下
宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ
ETV特集「鍵をあける 虐待からの再出発」の批判的検討
2023年8月21日
https://www.caresapo.jp/senmon/blog-munesawa/110035
この批判に反論するだけの十分な知識はないのだが、何か違和感が残った。
その違和感をうまく言語化できないが試みてみる。個々の支援方法や強度行動障害の定義について、ほとんど知識がないのでコメントできないが、議論の余地はありそうな気がした。
そして、いちばん、大きな違和感は以下。これはぼくの知識でも指摘できる、
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そして、中井やまゆり園の虐待事案の本態部分を構成したはずの、重症度の高い強度行動障害の状態像にある人を含めて、園の支援の全体があたかも地域生活移行の方向に向けて進んでいるかのように「美しい物語」を描くのは、いかがなものでしょうか。事態は、そんなに簡単ではないことに真実があると考えます。
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いままでのひどい状態から一歩進んだことは確かであり、そのようなひどい状態の入所施設が現在も多数存在するのではないか、そういう意味でこの地域移行のための取り組みがとても大切な取り組みであるという視点がこの文章からは読み取れない。また、地域移行が進んでいないと主張するのであれば、その根拠を示す必要があるのではないか? さらに、このような指摘は入所施設からの地域移行を進めない正当化に使われ、地域移行を進めることを委縮させる効果を持つのではないか、そんな気がした。
もちろん、ぼくも地域移行が直線的になんの困難もなく進むなどとは思っていない。そこにはさまざまな困難や苦労が伴うだろう。しかし、そこに向かおうとする姿勢こそが大切なのだと思う。現状の入所施設の多くがそこに背を向けたままなのではないか、その現状を等閑視して、この番組を批判することに大きな違和感が残るのだった。
個別の支援方法については、それぞれ大川さん側の反論も含めて対話し検証する必要があるだろうし、コミュニケーションがとりにくい人たちとどうしているかという指摘も大切な指摘だと思うが、それがないからと番組を批判するのも一面的ではないかと感じた。
また、最近、大川さんが責任者である同愛会の施設における虐待事案が報道された。ここでもそういうことがあるのだと思った。今後、同愛会がどのような対応をするのかに注目したい。
大川さんや中井やまゆり園の新しい所長の見解は
https://tu-ta.seesaa.net/article/500453460.html で紹介した動画で見ることが出来ます。
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