『戦争は女の顔をしていない 2』メモ

『戦争は女の顔をしていない 2』読了。

順は前後したが、これで現在出ている4巻、全部読んだことになると思う。他の巻の感想は少し読書メーターに残してあるが(https://bookmeter.com/reviews/114067247 など)、ブログには掲載してなかった。この2巻の読書メモは長めに書いたので、以下に掲載。

旧ツイッターのこの漫画の公式サイト https://twitter.com/unwomanlyfofw を見たら、この漫画、全話掲載されているとのことだが、ちょっと見たところ、コマ切れで読みにくそう。


以下、読書メモ


「人間は戦争の大きさを超えている」

「人間のスケールが 戦争を超えてしまうような そういうエピソードこそ 記憶に残る」(8話)。

人間のスケールと戦争、そんな比較が可能なのか、難しい。


にしても、再び思うのだが、

この話は女の顔をした戦争の話ではないか?

戦争には「女の顔」も存在しているのではないか? 


印象に残ったのが第11話。ニーナの話。ニーナがした話(かなりたくさんあるようだ)を著者が書きおこして送ったら、ずたずたに削られ、書いたことがほとんど残っていないとのこと。ニーナが著者に話したことと、話し終わった後にまとめたものを否定してきたことを受けて「一人の人間の中にある二つの真実」と著者は表現する。戦争のリアルで悲惨な面と、その戦争の意義を否定することを拒否する気持ち。

自分の中にある二つの相反する「真実」にどう向き合うのかというのは大切な話だと思う。

しかし、ここで語られているのはもう少し違う話かもしれない。ここで書かれているのは「自分の心の奥底に追いやられているその人の真実」「現代の時代の精神の染みついた新聞の匂いのする他人の真実」

そして、【一つ目の真実は二つ目の圧力に耐えきれない】と描かれる。二つの真実がそんな風に単純に割り切れるものであれば、楽だと思う。しかし、実際に例えば自分のなかにある矛盾する二つの真実はグラデーションの濃淡でつながっていて、単にA地点からB地点というような一次元でも、そこに縦軸を加えた二次元でもなく、空間的な広がりを含む三次元の中でAからBへとつながっていて、その空間自体が時間軸に乗って変化していく。その時間軸も実際の時間のように直線的にまっすぐ進むわけではない。そんな風に現実の世界は変化に満ちている。


漫画の話に戻ろう。この漫画では「二つ目の圧力に耐えきれない」という話から以下の話に続く。「話を聞くときに彼女のほかに身内や知り合い、ことに男性が居合わせると、真心からの打ち解けた話が少なくなる」。

そこから、「深い底に沈んでいる気持ちにまで入り込むのは難しかった」「聞き手が多いほど話は無味乾燥で消毒済みになっていった」「かくあるべしという話になった」という。その結果、「恐ろしいことは偉大なことになり」「人間の内にある理解しがたい暗いものがたちどころに説明のつくことになってしまった」。


「私はいつも驚かされた」として描かれるのが、「もっとも人間的なことに対する不信感」「現実を理想や実物大の模型に、ありふれた暖かみを冷たい輝きに すりかえたいという願望」。そのような表面的な装飾をはぎ取っていくのが著者アレクシェーヴィチの仕事だと言えるかもしれない。しかし、その作業は危険な話でもある。著者が見たいものだけを見ることにつながるかもしれないし、表面的だと思われたものは必ずしも表面的だとは言えないかもしれない。そのような危険を引き受けて、戦争の立体的な姿を描き出そうとする努力がここにある。

本の内容から少し離れて
前にもどこかで書いたかもしれないが、日本語で書かれたこの漫画のセリフ。たぶん、翻訳書を参照しているのだと思う。しかし、この漫画には翻訳者への謝辞が掲載されていない。少なくともぼくは見つけられなかった。翻訳作業に対するリスペクトはそれぞれの巻にしっかりと言葉で掲載すべきではないかと思った。このコミック版が原著から翻訳して、翻訳書を参照していないのであれば、これは失礼な話なのだが・・・。

誰かこの漫画と翻訳書の対比をしてくれないかな、自分で出来ればいいんだけど・・・。もしかしたら、すでにあるのかも、ちょっとだけ探してみたが、見つからない。

P.S.
池上彰さんが朝日にコミック版の書評
https://book.asahi.com/article/13069876
ここに書かれているように、この本がコミックになっている意味は大きいと思う。コミックだから、ぼくも読めたのだから。

P.S.2

『戦争は女の顔をしていない』がJR京浜東北線・根岸線2編成の中吊りを貸し切り!

とのこと。https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000012608.000007006.html
よく使う京浜東北線でこんなのがあったのを知らなかった。乗りたかったなぁ。

戦争は女の顔をしていないポスター.png

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