「支援」と「協働」について(論文で「ほんの紹介」70回目)

2023年12月に掲載されたたこの木通信の原稿。

「支援」と「協働」について

(論文で「ほんの紹介」70回目)

 支援の支配化を防ぐには,支援者という立場や支援論の絶対化を防ぐ必要がある.これらが絶対化する危険性は,支援関係そのものに内在し,それを乗り越えるためには,伴走者が当事者から影響されることを受け入れ,自分から変わることを実践していく必要がある.このような実践は,支援ではなく,協働と呼ぶべきであろう.協働モデルにおける相互変容過程は,伴走者が自分から変わることを通じて,当事者との協働関係を構築し,問題解決を図ることを目指すものである.

 いきなりの引用。これは吉間慎一郎さんの社会変革のジレンマ ―伴走者と当事者の相互変容からコミュニティの相互変容へ―」という論文(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjscrim/44/0/44_46/_pdf/-char/ja )の一節。

 まず、支援者という立場が支援される人(当事者)に対して権力性を内包しているということを日常的に意識する必要があるのだろう。そして、それを乗り越えるために伴走者が当事者から影響されることを受け入れること。ここまではなんとなく出来る。その上で、自分から変わることを実践していく」。ここがけっこう困難なんじゃないかと思った。自分をどんな風に変えられるのか。

 続けて吉間さんはこのような実践は,支援ではなく,協働と呼ぶべきであろう」と書く。更生支援における「協働モデル」に関して、それが更生支援という支援だとしても、そのように「呼ぶべき」という気持ちは理解できる。

ここに続けて、以下のような説明がある。

 協働モデルは,支援が新自由主義的な選別に陥らないようにする仕組みづくりによって,支援の支配化を乗り越えようとしている.つまり,当事者と支援者とを切り分けず,両者の立場は絶えず入れ替わったり揺れ動いたりしていることを受け止める.そして,支援者や被支援者という固定的な立場に基づいたコミュニケーションを避けることによって,支援者側の価値観やプログラムに当てはまるかどうかという選別が行われないように企図している.協働モデルは,どこでも普遍的に成り立つ「正解」は基本的にあり得ないという立場に立ち,その場その場で成り立つ「成解」を生 み出そうとしている.「成解」とは,「ローカルな文脈という『空間限定的』で,かつあるタイミングでのみ適合するという『時間限定的』な制約を持つ概念」であり,「『当面成立可能で受容可能』で,その現場を変え得る力を持つ『解』としての『成解』」が,現場に求められているのである(竹端 2012: 154.そして,ある場所で生まれた「成解」は,既存の「正解」とされてきた価値観や支援論を書き換えていくという変革を絶えず行っていくことになる.

 重度の知的障害の人の支援の場合、「入れ替わる」という感覚はあまりないかもしれない。しかし、生活などの行為を支援というよりも協働してともに創っていく、という感じはあり、そこで求められているのは「正解」ではなく、とりあえずの「成解」というのも、うなずけるところが多いいのではないかと思う。そのあたりの話は三井さんが最近書いた『知的障害・自閉の人たちと「かかわり」の社会学:多摩とたこの木クラブを研究する』にも書かれていた思う(まだ読み終えてないけど)。

 ところで、吉間さんの本は以前、ここでも紹介したことがある。タイトルは『更生支援における「協働モデル」の実現に向けた試論〜再犯防止をやめれば再犯は減る〜』。ここに協働モデルの詳しい説明もある。

 そして、今回、紹介するこの論文では、「協働モデル」の実現に向けた話を社会変革につなげる。支援者/被支援者という関係を協働する人に変えていくことで犯罪を再び起こさないような関係性を作っていうのを支援者だけでなく、社会との関係に置き換えることで、出来ない人は取り残されてもいいという新自由主義的な社会から、そうではない社会の新しいありようにつなげていく。現実問題として、犯罪を犯してしまった人に対する社会が冷たいことが再犯を誘発している面はある。そういう意味でも社会が変わることが必要なのだ。

~~~~

参照

『再犯防止をやめれば再犯は減る』ってホントかな?
(ほんの紹介、14回目)
https://tu-ta.seesaa.net/article/201808article_1.html

『更生支援における「協働モデル」の実現に向けた試論』メモ その1(Webの紹介と第1部(第2章)まで
https://tu-ta.seesaa.net/article/201903article_4.html


以下、読書メモは その2 その3 と続いているが、本の最後まで届いい居ていない。

この月のおおたTSでのイベントの準備の過程で書いたもの


この記事へのコメント