『能力2040』(太田出版2020年) 能力主義って・・?
2024年7月にたこの木通信に掲載してもらった原稿。ブログへの掲載にあたって適当に補足。
太田出版のこの本のサイト
https://www.ohtabooks.com/publish/2020/04/23122604.html
から伊藤書佳さんが書いた第一章はすべて試し読みで読むことができる。
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先日、北区にあるCIL北の介護事業所、ピア北の労働組合の学習会に飛び入り参加。
その時のテキストとして指定されていたのがこの『能力2040』というブックレット(現在は古本(高い!)か電子版のみ)。CIL系列の介護派遣事業所に労働組合が存在すること自体が珍しいが、その労働組合で「能力主義」を問う学習会を開くって、おそらく他でやられていないと思うけど、とても大切なことだと思う。ちなみにこの本、教育文化総合研究所からの委託で集まった能力論研究委員会のメンバーによる共著とのこと。
この本の「はじめに一能力と社会をめぐる未来語り」を書いているのが開催中で7月14日に1回目が終わったばかりのたこの木の連続講座の実行委員でもある伊藤書佳さん。こんな風に書き出している。
ときは二〇四〇年。
日本社会は、ずいぶんと変わりました。
いちばんよかったなあと思うのは、すべての一人ひとりの生を保障することがなにより優先されると考えられるようになり、社会構造の変革が起こったことです。激烈な競争に勝ち抜くことと、生の保障はいまではすっかり切り離され、人々は恵まれた人と恵まれない人とに分断されることなく生き合っています。
ワーキングプアも過労死も過去のものとなりました。相対的貧困解消のためには直接支援がおこなわれ、就労の有無や病気や障害などの状況によって必要に応じた社会保障が得られるようになっています。BI(ベーシックインカム)ならぬAI(アベレージインカム=平均所得保障)により、GDPの半分を人口で割った金額も給付されるようになりました。生活保護制度時代にあった受給者バッシングはなくなりました。「役に立たないやつはダメだ」とか「自分で稼いで一人前」とか「それぞれ得意を活かして努力して、自律した人材になって生きのびなければ」とか「生きていてもしかたのない人間もいる」というのはつくられた物語にすぎなかったと、それを自分たちが信じ込んでしまっていたと、いまではみんなが知っています。
一日の労働時間も四時間になり・・・
ここから、さらに2040年には能力主義から自由になった教育や核兵器の廃絶などの話に続く。伊藤さんはこの「作り話」を「未来語りのダイアローグ(AD)」にインスパイアされて書いたとのこと。ちなみにこのADとはオープンダイアローグの姉妹編みたいなもので、本来は1年後くらいに自分がこうなっていたいというような姿を語り、そのために誰が何を担ったのかというような話をみんなでしていくという困りごとを抱えた本人や家族の支援のための手法。
1章以降は、何人かの著者が能力主義とは何か、何が問題なのか、あるいはスペインでのインクルーシブ教育や労働者協同組合の事例からメインストリームが求める「能力」によって分断される社会を問い直す論考が置かれている。そして、2章の冒頭で松島健さんはこんな風に書く。
「能力主義」が問題にされるべきは、端的に言うと、それが現にある不平等を正当化する言説として機能するからである。
また、3章では市野川容孝さんがメリトクラシーとエイブリズムという英語から能力主義を説明する。メリトクラシーという言葉が最初に使われたとき、それは貴族の支配から能力を持つ少数者による支配への転換だったが、両方とも少数者による支配だとして、否定的に使用されていたとのこと。能力主義にどっぷりつかって育ってきた身としては能力のある人が支配すればいいと思いがちだが、それはデモクラシー(民主主義)ではない。そこでは結果の平等が否定される。確かに親から引き継いだものや能力以外の理由で手にしたものによって支配されるより、純粋に能力がある人が支配したほうがましかもしれないし、ピケティが主張しているのもそれとのこと。そうではなく、デモクラシーを裏切るものとしてのメリトクラシーと捉えてはどうかと市野川さんは書く。
エイブリズムという言葉の最初の定義は「できること」による「できないもの」へのシステマティックな抑圧。そこから障害学では、その「できる・できない」とか能力がないとかいう物差しをゆさぶり、それをいくつもに開いて・・・あらら紙幅が尽きた。興味がわいたら読んでみて。ぼくには「ちょっとなぁ」という章もあったけど面白かった。
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8月にも続きを書いて、たこの木通信に掲載してもらいました。
後日、アップしますが、たこの木通信を購読してダウンロードしたら、いまでも読めます。
https://takonoki.net/ から
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