『水道、再び公営化』メモ

この本もPARCのフィアレス・シティ(資本や国家を恐れない都市) https://www.parcfs.org/2024-01/ に関連して読んだ。


水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(岸本聡子著2020年 集英社新書)

https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1013-a/


上記の出版社サイトから
【本文より】

「水のような<コモン>の管理を人々の手に取り戻すことこそが、形骸化しつつある民主主義を再起動させる鍵なのだ。

(略)私は小さな草の根の変化の積み重ねなしに、国や国際レベルの変化を望む近道はないと思っている。

地域から民主主義の練習と実践の運動を重ね、地域を越えて連帯することで力をつけていきたい。

再公営化、ミュニシパリズム、フィアレス・シティ運動は、これからも成長していくだろう。

(略)その胎動は日本でも始まっている。」


【目次】

はじめに――奪われる「水への権利」

1章 水道民営化という日本の危機

2章 水メジャーの本拠地・パリの水道再公営化

3章 資本に対抗するための「公公連携」

4章 新自由主義国・イギリスの大転換

5章 再公営化の起爆剤は市民運動

6章 水から生まれた地域政党「バルセロナ・イン・コモン」

7章 ミュニシパリズムと「恐れぬ自治体」

8章 日本の地殻変動

おわりに――草の根から世界は変わる




以下、メモ。(ほとんど抜き書き)



【第七章 ミュニシパリズムと「恐れぬ自治体」】だけを読んだ。

(このあとに8章と「おわりに」も読んだ)

ミュニシパリズムとは…「municipality」に由来する言葉…。選挙による間接民主主義だけを政治参加とみなさずに、地域に根づいた自治的な合意形成をめざす地域主権的な立場…。…「利潤や市場のルールよりも、市民の社会的権利の実現」をめざして、政治課題の優先順位を決めること…。つまり、「ミュニシパリズム」とは、新自由主義を脱却して、公益と〈コモン〉の価値を中心に置くことだ。(133-144頁)




▼運動しながら理念をつくる

 ところで「ミュニシパリズム」は、比較的なじみのある「地域主権主義」という用語とはどう違うのか。

 「ミュニシパリズム」を掲げる自治体や運動に共通する新しい特徴は、地域の政治が国際的に協力したり連帯することを重視する国際主義にある。グローバリゼーションの結節点である都市部で共感とともに広がっている事実は注目に値する。

 まだまだ概念が流動的な「ミュニシパリズム」だが、その理解の手助けとなる会議があった。二〇一八年一一月にブリュッセルで開催された「MunicipalizeEurope!」(欧州をミユニシバリズムで民主化する!)である。136-137頁


▼恐れぬ自治体「フィアレス・シティ」

「ミュニシパリズム」にはふたつの特徴がある。ひとつは「政治のフェミナイゼーション(女性化)」である。これはただ女性議員の比率を増やせばそれでよしというものではない。「競争」、「排除」、「対立」など、ともすれば男性的な価値観で行われることの多かった政治を「共生」、「包摂」、「協力」といった女性的価値観で一新し、人間にやさしい政治を実現しようというものだ。

 もうひとつの特徴は、世界の諸都市との連携を重視する国際主義だ。国民国家を巻き込みながらグローバルに展開する新自由主義的な動きに対抗するには一自治体の力だけではおぼつかない。そこで新自由主義を脱却し、公益とコモンズを中心に置く自治を実現したいと考える都市と都市が国境を越えて協力し合おうというものだ。この国際主義こそが、「ミュニシパリズム」と偏狭な地域保護主義を峻別する最大の特徴と言ってもよいだろう。

 こうした国境を越えて連携する都市の動きはやがて「フィアレス・シティ」(恐れぬ自治体)と呼ばれる世界的な自治体運動へと発展した。

 日本ではその動向がほとんど報道されないため、「フィアレス・シティ」ということばを大部分の人が知らないだろうが、・・・143p



「フィアレス・シティ」「恐れない街(都市)」という日本語訳がある。

説明すると、新自由主義や大企業ばかりが優先される社会で、それを推進するEUや国家や多国籍企業やマスメディアを恐れず、難民受け入れも恐れず、地域経済と地域の民主主義を発展させることで制裁を受けることを恐れずという「3つの恐れず」を宣言し、同じ志をもつ都市、というようなことらしい。144頁参照。


ミュニシパリズムの原則

1 地域政治から欧州へ

2 ロビイストに負けない町に

3 地域民主主義を育てよう

4 住宅問題を政治課題に

5 住宅の借り手と住宅ローンをもつ人々を保護しよう

6 投機的な観光産業に対抗しよう

7 難民を受け入れる町であろう

8 気候危機から目を背けない

9 空気のきれいな健康的な町に

10 水とエネルギーを民主化しよう

11 独占寡占企業は排除

12 搾取的に労働者を使うプラットフォームエコノミーを規制する

13 価値にもとづく公共調達を行う

14 倫理的な銀行を

15 多国籍企業の納税を徹底する

16 分権的で民主的な文化を

17 本物の民主主義を

18 政治を女性化する

19 党派性より目標を優先しよう

20 連携しながらネットワークとして活動しよう

147頁の表から



▼公共調達という武器

 ところで、現在、「フィアレス・シティ」でもっともホットな話題になっているのが公共調達だ。公共調達とは、政府や自治体が物品やサービスを民間から購入する行為のことで、ちなみにEUの公共調達の総額は二兆ユーロ(約240兆円)を超え、GDPの二割に相当する額だと言われている。

 地方自治体レベルでみても、公共調達はそれなりの額になる。「フィアレス・シティ」の自治体では、公共調達を地元の企業や協同組合に受注させることで、もともと市民から徴収した税金である調達費を地域内で循環させ、地域に雇用や収入源を確保できないかという論議が高まっているのだ。

 公共調達のパワーを利用して地域の力を強め、地域に根ざした新たな連帯経済、オルタナティブ・エコノミーを創出する戦略と言ってもよい。

 ただし、公共調達は公開入札を原則にすることが多く、受注するのは大企業になりがちだ。それがグローバル企業であれば、調達費は、国外に流出してしまい、国富は失われる。それは地域の単位でみても同じことだ。地域の外の企業が受注すれば、地域の富が外に流出していく。

 とくに、有力な地場企業がない小さな自治体であればあるほど、否応なしに多国籍企業のグローバルなサプライチェーン(供給網)の末端に組み込まれ、画一的な物品やサービスを購入させられる。その挙げ句、貴重な「地域の富」までも奪われてしまうのである。先に紹介したグルノーブル市が地元の食材を給食に優先使用した事例は、地元からの公共調達の小さな試みのひとつだ。

 バルセロナ市はもっと大きくそれをやろうとしている。市議会はすべての公共調達契約を精査した。そして新しい入札においては、選定の基準に人権の遵守、女性への公正性、租税回避をしていないこと、フードマイル(食べ物の輸送距離)を取り入れた。

 企業は入札に金額以外の基準を設けることを「差別的」として容赦なく訴訟を起こしている。競争法を専門とする企業弁護士が企業内部にも周辺にも山のようにいる。多くの訴訟を闘いながら、恐れぬ自治体バルセロナ市は前進する。149ー150p



▼地域の富を作りあげる

 じつはこのような公共調達で地域の富を守る試みをすでに大規模に実践し、成功させている自治体がある。イギリスのランカシャー州にあるプレストン市だ。

 人口一二万人のプレストンは、ごく最近まで新自由主義的な政策によって疲弊した、典型的な地方都市だった。同市は厳しい緊縮財政を強いられ、コミュニティ支援担当の職員は半減させられた。公共の図書館やスイミングプールを維持することも困難になった。

 平均寿命は、同じ市内でも地区によって六六歳から八二歳までとばらつきが激しく、住む場所によって医療や教育へのアクセスに著しい格差があることは明らかだった。また経済停滞と緊縮財政のしわ寄せは若い世代を直撃し、三人にひとりの子どもは貧困家庭で育っているという状況だった。

 そこで、市議会与党の労働党が二〇一一年に採用したのが、「地域の富の確立」(コミュニティ・ウェルス・ビルディング)という考え方だった。経済の民主化を通じて、地域の経済発展と、格差や不平等解決に取り組む方法で、ゴールは包摂的な経済だ。アメリカのシンクタンクが提唱したアイディアをプレストン市の市議が「輸入」したのだ。

 ポイントは、やはり公共調達だった。市役所、警察、病院、大学といった市の六つの基幹組織が購買するもの、つまり公共調達を地元の企業や協同組合に受注させ、市内の経済を活性化させたのだ。これらの公共基幹組織の購買力の総額は年間7億5000万ポンド(約1050億円)にのぼるのだ。

 2012年にプログラムが始まってからわずか四年のうちに、プレストン市内の企業や協同組合が受注した金額は1億1230万ポンド(約157億2000万円)となり、スタート時にくらべて約三倍となった。ランカシャー州内の受注先まで含めると、4億8600万ポンド(約680億円)で、これは購買費のおよそ65%にもなる。

疲弊した自治体が、じょじょに豊かになっていった。そして2018年、大手会計事務所がイギリスの四二都市を対象にした調査で、プレストンが健全な経済と地域の指標(雇用(賃金)、健康、収入、スキル、交通、環境)で「もっとも急速に改善を達成している都市」の一位に選ばれた。

 また、住みやすさ、働きやすさのイギリス都市ランキングでは一五位のロンドンを抜いて一四位に躍進。この成功がプレストンモデルとしてイギリス全土に知れ渡り、労働党の経済政策において、小都市プレストンがイギリス全体の地域経済活性化と民主化のモデルとなったのだ。

 公共調達というパワーを使って、地域経済の振興、再生エネルギーや有機農業へのシフト、地域の安定雇用の創出、地域密着型の介護や保育、フェアトレード、人権を守り公正な税金を納める企業の積極的な選択など多岐にわたる公共的な利益を実現できる。

 また、財政基盤の比較的小さい協同組合を振興したり、新規の立ちあげを支援することもできるだろう。これに公的な金融機関(パブリックバンク)が加わると、さらに地域の協同組合、非営利事業やケアサービス、地元ビジネスにお金が流通するようになる。

 こうした公共調達が全面化した自治体を思い描いてみると、公共サービスをグローバル企業によって民営化するということの本質がみえてくる。つきつめれば、そうした民営化とは、コミュニティの富をコミュニティの外に流出させるための手段なのではないか。

 そう考えれば、インフラを維持していくお金がないから水道の民営化を、という思考が、いかに本末転倒で、自らを窮乏させていく手段なのかがよくわかる。151-152p



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この公共調達と障害者の働く場を結びつけたのが、障害者優先調達法でもある。そういう意味で、障害者優先調達法をもっと積極的に使っていくということも考えられるし、対象を障害者だけに限らない方法もある。ローカルで仕事をまわしていくことは、地方だけでなく、東京でもできることはありそう。








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