『精神科診断に代わるアプローチ PTMF』 これは何??
PTMFというのが、興味深かったので以下、抜き書きとメモ
WAN書評セッション 『精神科診断に代わるアプローチ PTMF 心理的苦痛をとらえるパワー・脅威・意味のフレームワーク』
の案内で知ったPTMF
PTMFについてのわかりやすい説明がこのWANの書評セッションの案内文にあった。(協調部分引用者)
https://wan.or.jp/article/show/11486
本書評セッションは、感情的な苦悩やメンタルヘルスの問題への新たなアプローチ「PTMF」について多くの方に知ってほしいとの思いから企画しました。「PTMF」とは、「パワー(Power)・脅威(Threat)・意味(Meaning)のフレームワーク」の頭文字で、精神科診断という権威的なフレームを離れ、「私の経験」を、パワー(権力)による支配や、暴力による脅威(恐怖)という新たなフレームから読み直すレジスタンスです。
例えば、精神科診断で「症状」と呼ばれた強い不安が、「PTMF」では、支配-被支配の関係のなかで繰り返された暴力から「生き残るための戦略」であると読み直されます。「精神的な病に苦しむ患者」から「困難な状況のサバイバーの一人」への変化は、個人の人生を変えるだけでなく、苦悩を内向きの「症状」として呈することを女性に求めた、社会の理不尽さへの気づきを促します。
心理学者と臨床心理士、2人の女性が苦悩を読みとくフレームを疑い、勇敢にも新たなフレームを提示した意味とは。そして、自分の身体に起きたことを自分のせいにしてきた人、それに苦しんできた人、その苦しみから抜け出せない人、それでも抜け出したい人へ。このセッションを贈ります。
◆日 時: 2024年10月11日(金)19時~21時
◆場 所:オンライン(Zoom)
◆趣 旨:本書は2020年に出版されたA Straight Talking Introduction to the Power Threat Meaning Framework An Alternative to Psychiatric Diagnosisの翻訳書です。書評セッションには、翻訳者の石原孝二さん、松本葉子さん、そして、フェミニストカウンセリングのお立場から河野貴代美さんにお越しいただくこととなりました。「PTMF」というアプローチについて、どのような文脈から捉えているか? この先の展開をどう見ているか? 修復的司法など権力、脅威に関わる近接領域との関連は? 日本における可能性は? など、それぞれのお立場から闊達なご意見をお聞かせいただきます。〈WAN女性学研究所 所員〉西川由紀さんは、当事者経験も織り込みながらコメントします。「他者から暴力を受ければ、それは暴力を受けた人の心身に影響を及ぼします。原因は外部からの暴力、結果は心身への症状です」という西川さんは、PTMFに出会って何を感じたのか。そして、被害者女性への対応にどのような変化を望むのか。当事者の声を届けてくれます。
◆プログラム
開会:清水由紀子
コメント : 河野 貴代美、西川 由紀、石原孝二、松本 葉子
登壇者による討議 参加者との質疑応答
閉会:清水由紀子
そして、この本の冒頭部分を出版社のサイトの「試し読み」から抜き出してみた。この文章は「本書がその一冊となっているPCCSBooksのStraight Talking Introduction(「率直に語る」入門書)シリーズの紹介です。〔同シリーズ他書が本書201ページで紹介されています〕」とのこと。
メンタルヘルスの問題とは何か?
感情的な苦悩やメンタルヘルスの問題について書かれたり話されたりすると.その問題はたいていの場合,病であるとされてしまいます。そのため、私たちは容易に,「病は医者に任せるのが一番だから,メンタルヘルスの問題について考える必要はない」と思いがちです。医師は病の専門家であり,精神科医は精神の病を専門とする医師なのですから。しかし.このシリーズではそういった考え方をしません。メンタルヘルスの問題全てを自動的に病とみなすべきではないと考えるからです。
メンタルヘルスの問題が必ずしも病でないのであれば、医師や精神科医が私たちの生活における苦悩の責任の全てを負うべきではないということになります。全ての市民は,誰もが充実した生活を送る機会を得られる世界を作ることに対して.何らかの責任を有しています。こうした考えに対しては異論があるかもしれませんが、私たちは支配的な医学的見解に対して,この考えを推進したいと考えています。
メンタルヘルスの問題を理解し解決する方法が医療の専門家の専売特許となっていることを受け入れるのではなく,精神医療サービスのユーザー,ケアに携わる人,家族,友人,その他自分の人生をコントロールしている「普通の人たち」、つまりは私たち全てを巻き込む代替案を考えていきたいと思っています。自分自身の問題であれ、他の人の問題であれ,メンタルヘルスの問題に積極的に取り組むために必要なツールの一つは,知識です。このシリーズは,メンタルヘルスについて知りたい人のための出発点となるものです。
というように、すごく興味深い話なのだが、本は「定価4,180円(税込)」という悩ましい高価格。
出版社のサイトは https://www.kitaohji.com/book/b620327.html
ここから上記の「試し読み」、目次を含めて34頁分が読めて、それはとても興味深い。
さっき抜き出した部分の少し先には、こんなことが書いてある。ここも先ほどのシリーズの紹介の続きで、「シリーズの本はどのように書かれているのか」という見出しの中の文章
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現実主義と安心
私たちの目標は、過度に楽観的でも悲観的でもなく、現実的であることです。物事は常に、私たちが望むより複雑です。メンタルヘルスの問題を率直に評価するならば、何が原因でそれが起こるのか、どういったことが助けになるのか、どのような帰結になるのかといった問いに対する答えは、それぞれの中間に存在しているからです。それは人生の多くのことと同様です。大多数の人が一生治らない病にかかっているとするのは間違いです。しかし自分が抱えている苦しい考えや感情によって影響を受けることがないというのも同時に間違っています。人生は経験の積み重ねです。「以前の状態」に戻してくれる薬や治療法はありません。しかし、医師、精神科医、心理士、カウンセラー、そしてメンタルヘルスサービスに携わる全ての人たちと協力してできることも多くあります(このシリーズではそういったことを紹介しています)。友人や家族の助けを借り、あるいは自分自身で、未来に希望をもって、気持ちを落ち着かせ、建設的な人生を築くチャンスが大いにあるのです。
もちろん、このシリーズで扱われるような経験は、時に圧倒的なもので・・・自殺さえしようとするもの・・。・・・。私たちは、ある状況下では自殺は合理的な行為であり、本人にとっては意味のあることだと認めます。しかし、そのような後戻りできない極端な行動の背景にある苦悩の多くが、回避可能であるとも考えています。だからこそ、このシリーズの全ての本が現実的な希望と回復を目指しているのです。
ここに続いて、書かれているのは、「このシリーズで検討されている最も重要な問いの多くには、一つの都合の良い答えはありません」という話。この続きも興味深いので、関心のある人に この試し読みはおすすめ。また、以下の書評もこの何度読んでも覚えられないアルファベット4文字のPTMFについての理解を助けてくれるかも。(ここも協調部分は引用者)
書評:『精神科診断に代わるアプローチ PTMF──心理的苦悩をとらえるパワー・脅威・意味のフレームワーク』(メアリー・ボイル,ルーシー・ジョンストン著,石原孝二・白木孝二・辻井弘美・西村秋生・松本葉子訳/北大路書房刊)|評者:八巻 秀
https://shinrinlab.com/bookreview0005/八巻 秀(駒澤大学・SYプラクティス)
シンリンラボ 第7号(2023年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.7 (2023, Oct.)
これまで心のケアに対しては,圧倒的に医学モデルが適用されることが多いのが現状であるが,この精神科診断に基づく伝統的・主流の医療・治療モデルに対する1つのalternative(代替案・別の選択肢)として,「PTMF:パワー(Power)・脅威(Threat)・意味(Meaning)のフレームワーク(Framework)」という新たな視点・枠組みを紹介しているのが本書である。専門書ではあるが,日本語訳が秀逸なのでとても読みやすい本である。
私たち支援者は,心理的な苦悩に直面している人たちを,ただ精神医療につなげるだけで安心し,救った気になりがちであるが,それだけでは単なる「手抜きのリファー」と言って良いだろう。現代における心の不調は,精神医学的なその人自身の個人の問題だけでなく,その人を取り巻く社会の問題(それは「関係性」の問題とも言える)が色濃く影を落としていると,支援者が考えていくことが,大切になっているのではないだろうか。PTMFはそのような視点もきちんと提供している。
このPTMFを学んだ支援者が,悩める人たちやその家族に問いかけるのは,症状や問題ではなく,「何が起きたの?」というナラティヴやストーリーである。
具体的には,次のように問いかけていく。
「どんなことがあなたに起きましたか?」(パワーは人生にどのように作用しているのか)
「その出来事はあなたにどのような影響を及ぼしましたか?」(そのことは,どのような脅威をもたらしているのか)
「あなたはそのことをどのように理解しましたか?」(そうした状況と経験の意味はどのようなものなのか)
「生き延びるために,何をする必要がありましたか?」(どのように脅威へ反応しているのか)
このようにPTMFによって支援者はクライアントや家族の経験(それに伴うナラティヴ)を聴き出し,それに寄り添いながら,支援のプランをともに組み立てていくことができるのである。
先日,福岡で開催された家族療法学会において,このPTMFがテーマのシンポジウムがあり,シンポジストである白木孝二先生(Nagoya Connect & Share)が「PTMFはアプローチではなく,フレームワークであり,より希望の持てるナラティヴや物語を構築するための支援として活用できる」と述べていたのが印象に残っている。またそのシンポジウムの参加者の一人から「このPTMFが示しているものは,すでに私たちの現場では使われている。当たり前のことを言っている」といった趣旨の発言があった。まさにそのような「最前線の臨床現場の人たち」によって,PTMFの手法を生かした関わりを行なっていくことが,これからの心理的支援には必要であり,今まさにより多くの支援者がPTMFを学び,それを指針としていくことが重要なのだと思う。またPTMFには,オープンダイアローグのトレーニングの一部として取り入れても良い共通性があるとも感じられた。
精神科医,看護師,心理専門職,ソーシャルワーカーなどの支援者から,精神科診断の「パワー」に悩む当事者まで,幅広く手に取ってほしい本である。
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