『食べものから学ぶ現代社会─私たちを動かす資本主義のカラクリ』 (「ほんの紹介」83回目)

たこの木通信2025年1月に掲載したもの。文章を少し手直しした。


『食べものから学ぶ現代社会─私たちを動かす資本主義のカラクリ』
(「ほんの紹介」83回目)
 
 現在の資本主義が大きな矛盾を生み出しているということがわかりやすく書かれている。そして、この方向に向かうべきだという示唆もある。ひとり一人が生活するうえで気を付けなければならないことも書かれている。問題はどうすれば、メインストリームの資本主義を違う方向へ向けることができるのか、だと思う。次回作も含めた三部作になるとのことだったので、次回作も楽しみ。(前作は『食べものから学ぶ世界史』)
 最初に「おにぎり一つ」が世界の政治と経済に繋がっている実例が示され、平賀さんは以下のように書く。「このようにおにぎり1つから、みなさんは世界の政治と経済に繋がっているのです。その現代社会のカラクリを食べものから読み解こうとするのがこの本の目的です」(ⅳ頁)
そう、資本主義の歪んだ仕組みを、こんな風に食べものを例に、わかりやすく(高校生にもわかるように)解説する本を岩波ジュニア新書で出すことの意味は小さくないと思う。多くの人にこの歪んだ社会の仕組みについて知って欲しい。そして、それを知った人たちが、何か行動したいと思えるような枠組みを作ることが、社会運動に求められている。
状況はとても悲観的という以上に絶望的な感さえある。しかし、絶望してあきらめてしまったら、そこで喜ぶのは、この歪んだ社会を支配している、今のメインストリームで甘い汁を吸っている人たち。
 社会をこうあって欲しいという方向に変えることは確かに難しい。しかし希望がないわけではない。レベッカ・ソルニットはこんな風にいう。「希望とは非常時にあなたがドアを破るための斧であり、希望はあなたを戸外に引きずり出す…希望は行動を求める。希望がなければ行動はできない」
 そう、地球にはすべての人がが飢えないだけの食料はあり、輸送のための車両などのシステムもある。しかし、それを飢えた人のために使うという政治的な意思がないだけ。
 SDGsを推進する企業が「この商品はグリーンだったり、エコだったりするので買ってください」という。しかし「商品を買う量を減らしてください」という企業はない。一番重要なのはリサイクルやリユースよりも、リデュース(減らすこと)なのに、と著者(18頁)。こんないんちきなSDGsが大手を振っている現実のなかで、斎藤幸平さんは「SDGsはアヘンだ」といった(*注)のだと思う。
 金融が【「潤滑油」というよりギャンブラー】になっているという金融化の問題を指摘する4章の指摘はとても重要だと思った。肥大化しすぎた金融化を具体的にどう規制すべきか、金融をあるべき「潤滑油」レベルに引き戻すためにどうしたらいいか、「潤滑油」レベルの金融がどのような役割を果たすべきなのかが課題となる。
 現代資本主義経済が求める「ちょっと賢い消費者」に留まっていては、どんな技術が開発されてもどんな政府になっても明るい未来は望めない
 どうすれば、人のいのちよりも「交換価値」が重視され、戦争や飢餓が絶えず、一部の金持ちだけがどんどん金をため込んでいく社会を変えていくことが出来るのか、そこに向けたロードマップをどのように作り、実現していくのか、そのような問いを、明確に浮かび上がらせてくれる本だった。

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(*注) SDGsはアヘンでもあるけど、綱引きの場と考えたほうがいい(2021年5月、9月、2022年1月、2023年2月、2025年2月追記) https://tu-ta.seesaa.net/article/202103article_3.htm

この本の読書メモは
https://tu-ta.seesaa.net/article/505595475.html

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