トランプ大統領の関税は極めて愚かだが、その理由はあなたが考えるようなものではない
PARCの内田聖子さんがフェイスブックにあげてくれた翻訳
https://www.facebook.com/shoko.uchida/posts/pfbid05Vu8kK7NJDjJGXdvDfF5gibFVAC11YkaCJtP5EaFShFBHhWpTcmwex1HZpr3TPXQl をもとに、少しだけ加筆。
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内田さんによる前説
トランプ大統領の大規模な関税発表について、米国のPublic Citizenのリサーチディレクターであるイザ・カマリロ氏による分析を翻訳しました。少し専門的な部分もありますが大筋はお分かりいただけるのではないかと思います。
★トランプ大統領の関税は極めて愚かだが、その理由はあなたが考えるようなものではない★
これは世界規模の詐欺だ。トランプは企業貿易モデルを否定しているのではない。彼はそれを武器にしているのだ。
4月2日、ドナルド・トランプは国家非常事態を宣言し、ほぼすべての輸入品に全面的な関税を課すと発表した。見出しは劇的だった。中国、カナダやメキシコなどの同盟国、そして自動車からコーヒー豆まであらゆる品物に関税を課すというのだ。トランプ政権はこの動きを「相互貿易」と経済主権に対する愛国的な姿勢と位置づけた。
騙されないでほしい。これは「自由貿易」の崩壊ではない。企業のグローバル化が継続しているだけである。ただ、MAGA のバンパーステッカーが貼られているだけだ。
トランプ大統領はアメリカの労働者のために決起したと言う。しかし、彼は米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に署名し、同協定を「これまで法制化された貿易協定の中で最も公正で、最もバランスが取れ、最も有益な協定」と呼んだ大統領だ。名称を改めた北米自由貿易協定(NAFTA)には、議会民主党と市民社会団体が押し付けたいくつかの改善点があるにもかかわらず、アウトソーシングを可能にし、独占を強化し、国民と環境を守ろうとする政府の手を縛ってきたのと同じ構造的腐敗が数多く含まれている。
(日本に住んでいるとNAFTAとUSMCAの関係、あまり知られていないと思いますっていうか、ぼくも知りませんでした。https://www.y-history.net/appendix/wh1701-092.html の解説がわかりやすかったです。)
(日本に住んでいるとNAFTAとUSMCAの関係、あまり知られていないと思いますっていうか、ぼくも知りませんでした。https://www.y-history.net/appendix/wh1701-092.html の解説がわかりやすかったです。)
トランプ氏は企業貿易モデルを拒否しているのではなく、それを武器にしているのだ。
数十年にわたり、NAFTAのような「自由貿易」協定は、多国籍企業によって、多国籍企業のために書かれたルールで固定化されてきた。そのルールは、海外への移転を容易にし、環境保護を骨抜きにし、労働者の権利よりも投資家の権利を優先するものだった。賃金の停滞、工場街の空っぽ化、所得格差の拡大は、働くアメリカ人の間に広範囲にわたる苦痛と不満を引き起こしており、トランプはそれを何度も武器として利用してきた。
関税はこれらの問題に対する解決策の一部になり得るが、トランプ氏の不器用なアプローチは解決策ではない。産業戦略も労働計画もなく、気候保護策もない。ただ一方的でトップダウン的な策略に過ぎず、依然として世界経済を操っている企業構造を解体するのに何の役にも立たない。
この「計画の概念」を、彼の政策の残りの部分と組み合わせると、バイオメディカル研究、基礎科学、クリーンで手頃なエネルギー技術と製品への支援など、重要な分野への投資を削減すること、世界中の児童労働やその他の甚だしい労働者の権利侵害と闘うためのあらゆる取り組みを大幅に削減すること、億万長者と企業への減税を提供すること、最も弱い立場にあるアメリカ人に対する医療、食料支援、その他の重要なサービスを剥奪すること、社会保障制度を弱体化させること、そして労働組合の資格を剥奪してその力を弱体化させることなどになる。
労働者がここで勝者にならないことは明らかだ。
★ルールを書いたのは誰か?外国の敵国ではなく米国企業
トランプ氏は他国を責めるのが大好きで、「解放記念日」の演説では、世界貿易が米国経済を「略奪、強奪、強姦、強奪した」と主張している。トランプ氏は、米国は他国によって被害を受けており、その対応に「優しすぎた」と主張している。
これほど真実からかけ離れたことはない。新自由主義貿易システムのルールは、グローバル北半球の大企業の利益のために不正に操作されていたのだ。米国や世界中の労働者が敗者である一方で、ウォール街、大手テクノロジー企業、大手農業企業、大手製薬企業、その他の米国大企業は常に勝者であった。
米国の企業ロビイストたちは何十年もの間、非公開の貿易交渉への特権的なアクセスを利用して、労働者や中小企業、環境のためではなく、利益を最大化するためにルールを操作してきた。
彼らは、医薬品の価格を高騰させ、致命的な結果をもたらす大手製薬会社の独占を強化するために、極端な知的財産権規則を推進した。彼らは、ウォール街のために資本市場の開放と金融フローの規制緩和を要求した一方で、農業関連大手企業が補助金を受けた米国産品を海外市場に氾濫させ、 何百万人もの農民を追い出し、強制移住につながるような規則を確保した。
公正な貿易に必要なのは、拙速な関税だけではない。それは、拘束力のある労働者の権利、気候変動保護、弾力性のあるサプライチェーン、民主的説明責任といった制度改革を要求するものである。トランプはそのどれも提供していない。
同時に、政府は国内産業を支援したり、労働基準を引き上げたり、環境保護を実施したりすると「貿易歪曲」の非難を受けることになる。その結果、国内外の労働者と地域社会にとって最悪の状況が生まれ、大企業は記録的な利益を上げた。
トランプ氏が失敗した世界貿易システムの誤った加害者を特定していることは、間違った解決策を招くことになるため、非常に重要である。
多国籍企業が現在のシステムの設計者であると認識すれば、私たちは正しい解決策へと導かれる。それは、無分別な公式に基づく一律の高関税ではなく、労働者、消費者、環境の利益を優先する新しい貿易政策と新しい貿易ルールだ。
★NAFTA から USMCA へ: 若干の改善はあるものの、同じ企業モデル (トランプ氏のおかげではない)
トランプ大統領は長年、NAFTAを「史上最悪の貿易協定」と非難し、その底辺への競争で被害を受けた労働者や地域社会の正当な不満を煽ってきた。同氏はNAFTAを廃止し、労働者にとってより良い協定に置き換えると公約して選挙運動を行っていた。
しかし、当選すると、彼はこの協定を再交渉し、USMCAという形で名称を変え、当時は「史上最高の貿易協定」だと主張していた。しかし今や、目もくらむような方針転換で、彼はUSMCAは大惨事であり、カナダとメキシコに対する「報復的」関税の積極的な波によってのみ解決できると主張している。
現実には、交渉でいくつかの改善が強行された一方で、USMCAは、そもそもNAFTAを非常に有害にした中核的な論理をほぼそのまま維持した。貿易拡大の名の下に、企業の権利を拡大し、民主的な監視を制限し、公共の保護を弱体化させている。
新たな労働条項は、貿易の「新時代」の証拠としてしばしば引用されるが、トランプ氏の合意に最初から含まれていたわけではない。下院民主党、労働組合、市民社会団体による何カ月にもわたる熱心な組織化と交渉を通じて勝ち取られたものだ。
AFL-CIOと緊密に連携して活動する民主党議員らは強硬な姿勢を貫いた。パブリック・シチズン、全米通信労働組合、全米鉄鋼労働組合、メキシコとカナダの労働者と市民社会のパートナーによる国際連合などのグループのたゆまぬ組織化に支えられ、彼らは明確な姿勢を示した。意味のある労働執行が盛り込まれ、 大手製薬会社への損害をもたらす特典が排除されない限り、いかなる協定も成立させない、と。
トランプ政権は、企業の特権を維持し、労働者の権利を象徴的に認める文言を好んだ。それでも、最終的には議会民主党の要求を受け入れた。労働執行のための施設固有の迅速対応メカニズムなどの必須ツールを組み込み、大手製薬会社への最も悪質な特典の一部を排除した。
しかし、NAFTAによる構造的な腐敗は残った。
企業が投資家対国家紛争解決(ISDS)を通じて公共の利益に関する法律をめぐって政府を訴えることを認める物議を醸している投資家特権の大幅な削減をイデオロギーの垣根を越えて専門家が称賛する一方で、トランプ大統領はメキシコで操業する化石燃料企業に対するISDSを維持した。 これは大手石油会社が積極的に推進した例外措置である。
アグリビジネスもまた武器を保有している。メキシコの遺伝子組み換えトウモロコシ規制に対する米国の貿易上の異議申し立ては、予防的健康基準と文化保存に根ざした措置だが、この協定の真の意図を明らかにしている。食品安全に関する国家政策の余地を尊重するどころか、貿易ルールは再び企業の命令で国内保護を解体するために利用されている。
トランプ大統領はNAFTAを修正できなかっただけでなく、少なくとも1つの決定的な点で事態をさらに悪化させた。ビッグテックはデジタル貿易の章という形でその希望リストを確保したのだ。これらの新しい条項は、AIにおける性別や人種の偏見、プライバシーの横行する侵害、独占的権限の濫用についてビッグテックに責任を負わせる米国の州、議会、その他の国の政府の能力を損なうものだ。
★パフォーマンス的な「保護主義」と権威主義的な貿易戦略
企業貿易体制を解体するどころか、トランプ政権の最初の任期は、彼がその体制に自分の名前を載せられる限り忠実にそれを管理していたことを明らかにした。USMCA のブランド変更にもかかわらず、彼は NAFTA の中核構造をそのまま残し、労働者階級の苦難に対する国民の怒りをかき立て続けた。根本的な原因に立ち向かうのではなく、他国をスケープゴートにすることで。そして彼は、正義を追求するためではなく、鈍い統制手段として、関税の脅しをますます好んで使うようになった。
ほんの数週間前、トランプ大統領はメキシコが軍隊を派遣して国境を軍事化しなければ新たな関税を課すと脅した。また、コロンビアに対し亡命希望者の強制送還を受け入れるよう圧力をかけた。
トランプ大統領がテクノロジーの説明責任政策の撤廃に同意する国々への関税を撤廃すると広く予想されているため、大手テクノロジー企業は援助を待っている。
そして皮肉なことに、トランプ大統領は関税を棍棒として使い、自らが反対していると主張する自由化貿易協定に他国が署名するよう圧力をかけているのだ。
「解放記念日」は、ますます権威主義的になっているホワイトハウスのこれまでのやり方と変わらない。議会を迂回した緊急命令、不安定さの増大、行政への権力の集中だ。トランプは新自由主義貿易モデルの反民主的な性質を拒否していない。彼はそれを猛烈に再現しているのだ。
★狂気ばかり、方法論なし
関税は有用な手段となり得るが、慎重な分析と開かれた議論を経て、明確な目的のもと、戦略的な分野で透明性をもって導入されなければならない。
しかし、トランプ氏の関税は誤解を招くデータと欠陥のある論理に基づいている。彼は貿易赤字を誇張して計算し、米ドルの優位性によって米国が輸出よりはるかに多くの輸入を可能にしていることについては沈黙しているが、これは債務と構造的貿易赤字に苦しむ南半球のほとんどの国には許されない贅沢である。
これらの関税の背景にある手法は専門家を困惑させている。
トランプ氏は、「相互関税」は各国の関税および非関税障壁の詳細な評価から導き出されたものだと主張した(これについては後ほど詳しく説明する)。実際、各国に割り当てられた数字は、米国が各国から受け取る輸入総額と米国が各国に輸出する総額の差に基づいているようだ。
どうやら、なぜ大きな不均衡が生じる可能性があるのかという点については考慮されていないようだ。例えば、トランプ大統領が「誰も聞いたことのない国」と一蹴したレソトは、どの国よりも高い50%の関税を課された。内陸国であるこの小さな国の人口200万人はアメリカ製の製品を買う余裕がないかもしれないという事実は忘れられており、それが貿易収支の不均衡につながっている。
各国の「相互」関税を決定するために使用された粗雑な計算式について、ノーベル賞受賞経済学者ポール・クルーグマンは「若手スタッフが数時間前に通知されただけで急ごしらえでまとめたような」ものであり、「本を読まずに試験にでたらめを言って合格しようとしている学生が書いたようなものだ」と評した。
一部の評論家が指摘しているように、この関税の内訳は、ChatGPT に米国の貿易政策を考えてもらうと得られるものである。これは、ロボット支配者たちが「ロボット支配者たちのために」書いた初の世界経済政策になる可能性が大いにある。一体何が問題になるのだろうか?
★企業のウィッシュリスト
トランプ政権は、何百もの国が課している何千もの関税や貿易障壁を見直すという、確かに大変な仕事を引き受けなかったことは明らかで、単に貿易不均衡を粗雑な代理指標として使っただけだ。それは、その国の関税、そして重要なことに、その国の非関税障壁のコストの代用指標なのだ。
「非関税障壁」とは、貿易用語で「 関税ではないが、貿易を制限する可能性のあるあらゆる政策」を指す。気候保護から最低賃金法、有毒な食品添加物による消費者保護まで、さまざまな政策を指す。多くの非関税障壁は重要な公共政策に役立つが、企業や貿易交渉担当者は、それらを利益の障害として扱うことが多い。
4月2日の大統領令によれば、トランプ大統領は、相手国が「非互恵的な貿易協定を是正し、経済および国家安全保障問題で米国と十分に足並みを揃えるための重要な措置」を講じた場合、その国に課せられた関税を一方的に引き下げることができる。
「重要な措置」が何を意味するかは定義されていないが、これは明らかに、各国政府がトランプ大統領とその億万長者の仲間をなだめるために関税を大幅に削減し、政策を転換するための公然たる誘いであるようにみえる。
それらの政策が具体的にどのようなものかは、ローズガーデンでのいわゆる「解放記念日」の関税発表演説の冒頭でトランプ大統領が振り回した報告書を見ればわかる。
その文書は、米国企業が気に入らない、他国が制定した、あるいは制定を検討している政策を400ページにわたって列挙したものである。これは、他国の正当な公共利益政策を名指しして非難する不適切な行き過ぎとして長年批判されてきた、政府の年次報告書である「対外貿易障壁に関する国家貿易評価報告書」である。これはまた、関税軽減と引き換えにトランプが破壊しようとしているかもしれない政策を垣間見るものでもある。
今年の報告書で対象とされている政策には、カナダのクリーン燃料基準、欧州連合の森林破壊のないサプライチェーン規制、日本の再生可能エネルギーインセンティブなどの気候保護が含まれており、これらはすべて世界的な気候公約と一致している。
消費者の保護、生物多様性の保全、長期的な健康リスクの防止を目的とした公衆衛生規制も攻撃の対象となった。数十カ国で導入されているこれらの規制には、ラウンドアップのグリホサートなどの農薬、遺伝子組み換え食品、牛肉や豚肉に含まれるラクトパミン、化粧品に含まれる重金属などに対する禁止、検査要件、さらにはラベル表示政策などが含まれる。
デジタルエコシステムにおける競争を促進する規制、大手テクノロジー企業にデジタルサービス税を課す法律、国境を越えたデータ移転に条件を課す法律、デジタル経済における公平性を促進する法律、AIなどの新興技術を規制する法律。
★トランプ氏の仲間にとってのメリット
トランプ大統領の関税の重荷を逃れようと嘆願するのは、各国だけではない。トランプ大統領は関税の費用は他国が負担すると主張しているが、この料金を支払わなければならないのは米国の輸入業者だ…ただし、トランプ大統領を説得して特別免除を認めてもらえれば話は別だが。
トランプ大統領の最初の任期中に作られた不透明で混乱した関税免除手続きが、政府機関をあっという間に圧倒し、金持ちやコネのある人々に利益をもたらす見返り利益のシステムを可能にしたことは、よく知られている。トランプ政権の元高官や将来の高官を含むロビイストたちは、政治的圧力、非公式の会合、選挙資金提供を通じて、CEOのクライアントのために有利な関税免除を確保することができた。
トランプの今回の煽りは 「リベレーション」とは何の関係もない。そのルールを維持し、あらゆる場面で人々を攻撃しながら、不正な貿易システムを修正することはできない。
このシステムを通じて、トランプ大統領は関税と関税例外を駆使して友人に恩恵を与え、敵を罰した。2025年1月の調査によると、共和党に寄付したCEOが免除申請を認められる確率は5分の1だったのに対し、民主党を支持したCEOの場合は10分の1だった。
トランプ氏の最近の法律事務所、大学、報道機関への攻撃が何らかの兆候だとすれば、彼は2期目を利用して敵を罰し、自分と友人を豊かにすることにさらに力を入れるつもりだ。また、監視機関の解体と大企業との結びつきの強化は、関税免除が労働者、消費者、米国および世界経済にとってさらに腐敗し、有害となる土台を整えた。
今回、関税免除の見返りとして、企業はトランプ大統領に他にどのような政治的忠誠心を示すことができるだろうか? 彼の政策を公に支持すること? DEIのイデオロギーや政権に批判的な意見がないか従業員を監視する約束?
★私たちはもっと良いものを求めている
貿易の公正さには、不十分に設計された関税以上のものが必要である。拘束力のある労働者の権利、気候保護、強靭なサプライチェーン、民主的な説明責任など、体系的な改革が必要だ。トランプ氏はそのどれも提供していない。
産業計画はない。労働組合への支援もない。気候変動への耐性ビジョンもない。混沌としたパフォーマンス的な関税制度があるだけであり、現実には忠誠心に対して褒美を与え、反対意見を罰するために確実に利用されるだろう。
トランプの今回の人目を引くためのばかげた行為(stunt)は 「解放 」とは何の関係もない。支配的な貿易システムを修正することはできず、その(システム)のルールを維持し、あらゆる場面で市井の人々を攻撃するだけだ。トランプは偉そうなことを言っているが、そもそも労働者の権利を根こそぎ奪ったのと同じ企業の利益に奉仕しているのだ。労働者は、企業を優遇する制度ではなく、労働者を中心とした制度を必要としている。
これは貿易の正義ではない。詐欺だ。
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