台湾と沖縄で描かれる『隙間』。その隙間はどこにあるのか (ほんの紹介88回目)

2025年6月のたこの木通信に掲載してもらった原稿

台湾と沖縄で描かれる『隙間』。その隙間はどこにあるのか
(ほんの紹介88回目)
 
 この漫画『隙間』を最初に読んだのは今年、5月、原爆の図 丸木美術館だった。1巻から3巻がその事務所に置かれていた。美術館に送られてきた本だという。その段階でなぜその漫画が送られてきたのか、誰も知らなかった。しかし、ナタリーというWebサイトにこの漫画の作者高妍(ガオ・イエン)さんと奈良美智さんの対談記事が掲載されていて https://natalie.mu/comic/pp/sukima 、そこで以下のように語られていて、なぜ、丸木美術館に送られてきたを知ることとなった。
 私が語りたいのは台湾だけではありません。沖縄についても触れたいんです。沖縄に住んで、沖縄について知れば知るほど、沖縄が直面している問題と台湾が似ていることにびっくりしました。沖縄の歴史を研究する中で、画家の丸木位里さんと丸木俊さん夫妻が共同制作した「原爆の図」と「沖縄戦の図」に触れたことが、私の創作に大きな力を与えてくれました。それもこれからの「隙間」に刻みたいなと思ってます。そして、丸木夫妻の制作現場を写真家の本橋成一さんが記録した写真集「位里と俊」には奈良さんが文章を寄せているんですが、それを読んですごく感動しました。私にとって丸木夫妻の作品は世界中の人々への贈り物だと感じます。私の「隙間」もそんな贈り物になったらいいなと願いながら制作してきました。

 この対談は2巻までのときのものだが、第4巻では主人公が佐喜真美術館に行き、丸木俊・位里の共同制作に触れ、説明を聞くシーンが描かれている。

 ともあれ、この秋から1年半の休館に入り、2027年の5月に大幅にリニューアルする前の最後の開館記念日の前日。そこで何気なく手に取って、一気に引き込まれた。借りて帰って、その夜、宿泊した小川町の古民家民泊で読み終えた。この作者のデビュー作、『緑の歌』は行きつけの本屋、葉々社の店頭にあったのを見かけて購入していたので知っていたが、それは細野晴臣が大好きな台湾の若者の話だった。この物語の空気がとても好きだったのを覚えている。細野さんのラジオ番組にも作者が出ていた。

 その作品と比べると、この『隙間』は政治や歴史、戦争が正面から語られる。やわらかい感性を持った若い台湾人女性である主人公の視点で台湾の現代史や沖縄戦が描かれている。こんな作品をぼくは知らなかった。そこで語られるのは歴史や政治だけでなく、他に恋人がいることを隠す自分のパートナーとのもやもやしたやりきれない関係の話や同性カップルの話。

 今年、6月11日に発売われたばかりの最新刊で最終巻である第4巻のあとがきに作者はこんな風に書く。
 大人になり、私は台湾のため、沖縄のため、そして今の世代のために何かしたいと思うようになりました。そこで、社会運動や沖縄での暮らしなど、私自身の経験を見つめ直し、『隙間』という漫画に昇華しました。この漫画を通して、世界の人々に、台湾と沖縄が置かれている状況を知ってもらい、理解してほしかったのです。

『隙間』はとても政治的な作品に見えるかもしれませんが、この作品が伝えたいのは政治的なことだけではありません。『隙間』は、普通の人の目を通じた青春の記憶です。それは私の心の炎のように、決して消えることはなく、ただ形を変え、あるいは火種となって、誰かの身体の中で燃え続けていくのです。私はこの作品が、社会問題や国の未来に関心を持つ子供たちを支える小さな柱になることを願っています。「あなたたちは孤独じゃない」ということを伝えようと、丁寧に1ページ1ページ描いて、この作品を完成させました。『隙間』は、私の台湾人としての自覚です。それは私たちの青春の記憶であり、私たちの歴史なのです。
もう、これ以上、ぼくが書き足すことはない。


P.S.
これを書き終えてから、気づいた。タイトルに「その隙間はどこにあるのか」と書いたのに、そのことには触れていない。
でも、それでいいと、いま、思った。その隙間は一人ひとりが探さなければならない。

『隙間』4巻から.jpg

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